企業を救った一片の誓い
創業者の志が受け継がれ、企業を救った例がある。
日本の衣料品店で初めてセルフ販売方式を導入した伝説の繁盛店「ハトヤ」の店主、西端行雄・春枝夫妻には、毎日欠かさぬ習慣があった。朝礼で従業員と声を合わせて、「誓いの詞」という企業理念を唱和したのだ。
「人の心の美しさを商いの道に生かして、ただ一筋にお客様の生活を守り、お客様の生活を豊かにすることを我々の誇りと喜びとして、日々の生活に精進いたします」
その後、志を同じくする同業者らと連帯して、総合スーパー「ニチイ」を設立。西端行雄は社長に就任する。多くの協力者と顧客の支持を得て、ナショナルチェーンへと発展していった。
しかし、戦時中の従軍で負ったけがが災いし、志半ば66歳で急逝する。副社長が2代目社長に就任すると、新たな企業哲学を制定し、社名を「マイカル」に変更。業容を拡大しつつ次々と大型店を出店していった。
新経営陣のもと、「誓いの詞」はいつしか朝礼で唱和されなくなったという。しかし、西端の薫陶を受けた社員たちは「誓いの詞」を忘れることなく、その教えを胸に日々の業務に励んだ。
2001年、膨らみすぎた泡がはじけるように同社は経営破綻を迎える。そのとき再建の手を差し伸べたのが、年上の西端を兄のように慕い、共に学び、互いに競ったイオンの岡田卓也だった。
岡田は再建を検討する際、誓いの詞が今もマイカルに息づいているかを確認したという。小さな灯のように、それは大切にされていた。「それならばマイカルは大丈夫だ」と岡田は再建を決断した。
今日、西端がつくった企業はイオンの一部となって救われ、誓いの詞は継承された。「慈愛真実」を自らの行動指針とし、「仏の商人」と言われた男が育んだ企業風土は今も生き続けている。
高い希望と志を掲げよう
それが自他の善に通じ
幸福につながるからである