OSA診断の難しさ
OSAのスクリーニングはエビデンス不足でまだ行わないとして、OSAによるかもしれない症状を訴える患者にOSAがないかの診断を進める際に家庭医はいくつかの難しさを経験する。
まず、診断基準からは、OSAを診断するためにはPSGを実施しなければならないが、どのような患者なら「PSGをするに足るほどOSAである可能性が高いか」を症状と兆候から見積もらなければならない。
先ほど書いたようにPSG自体かなり負担の多い検査であるし、家庭医診療所でPSGを実施しているところは多くはないので、他の医療施設へ紹介しなければならない。紹介する患者をできるだけ適切に絞って、OSAでない人が不必要な検査を受けることを避けたい。だが一方で、真にOSAがある患者を見逃してPSGへ紹介しないことで診断と治療の機会を奪ってはいけない。
いくつかの臨床研究からは、日中の過度の疲労感と目覚めた時に疲れが取れない状態が、OSA患者で最も認められる主症状である。いびきはOSAの感度が高いものの特異度は比較的低い症状だ。これは、いびきがない場合にはOSAでない可能性が高いが、いびきがあってもOSAである可能性は低い、と考える。最も特異的な症状は、目覚めた時の頭痛(2日に1度以上の割合で)と、睡眠中の呼吸停止や息切れであり、これらが認められればOSAの可能性が高くなる。
OSAと直接相関する特異的な身体診察所見(兆候)はないが、過体重の人では2倍、肥満の人では4倍、OSAの発生頻度が増すことが示されている。
いくつかの症状と兆候を組み合わせた質問表がOSAの評価に使われてきた。Berlin質問表、Epworth眠気尺度(ESS)、STOP質問表、STOP-Bang質問表などがある。ここでは、例としてSTOP-Bang質問表を挙げてみよう。
現時点では、OSAの診断について、質問表は感度が高いものの特異度は低い。ただ、症状と兆候をまとめて確認できるメリットがあるので、補助的に用いる意義はあると私は考えている。
以下の質問にそれぞれ「はい」または「いいえ」でチェックを入れてください。
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Snoring(いびき):大きないびきをかいていますか(話し声よりも大きい、またはドアを閉めても聞こえるほど大きい)。
Tired(疲労):日中に疲労感、倦怠感、または眠気を感じることが多いですか?
Observed(観察):睡眠中に呼吸が止まっているのを誰かに見られたことがありますか?
Blood Pressure(血圧):高血圧ですか、または高血圧の治療を受けていますか?
Body mass index(BMI):BMI は 35 kg/m² 以上ですか?
Age(年齢):50歳以上ですか?
Neck circumference(首囲):首囲が 40 cm 以上ですか?
Gender(性別):男性ですか?
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高リスク:3つ以上の項目に「はい」と回答した場合。
低リスク:3つ未満の項目に「はい」と回答した場合。
OSAの心血管リスクと合併症
最近の臨床研究によれば、OSAは高血圧、心房細動、心不全、冠動脈疾患、2型糖尿病、脳卒中の発症の独立した危険因子である。重症OSA患者では主要な心血管イベントおよび脳卒中のリスクが2倍、心臓死のリスクが3倍近く、そして全死亡率が2倍高くなることが示されている。だから尚更OSAを見逃してはいけない。
また、多くの疾患でOSAを持つ患者の割合が高いことも明らかになってきた。例えば、肥満低換気症候群患者の90%、心房細動患者の76%~85%、心不全患者の75%、難治性高血圧患者の73%~82%、脳卒中患者の71%、肺高血圧症患者の70%~80%、2型糖尿病患者の65%~85%、特発性肺線維症患者の59%~88%、甲状腺機能低下症患者の50%、心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の50%、不眠症患者の39%~58%、高血圧患者の30%~50%がOSAを合併していることが示されている。
研究方法や診断基準の違いによってばらつきが大きい結果となっているが、大うつ病性障害患者の7%~44%、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の5%~85%でもOSAを合併している。
