OSAのマネジメント
OSAのマネジメントについては、まず、重症度にかかわらずすべてのOSA患者で禁煙、減量、飲酒量の削減に関連した生活習慣改善のアドバイスが必要である。家庭医としての専門性を発揮できる領域である。その他、定期的な運動、横向きの体位での睡眠、眠気や疲労がある時には自動車などの運転を控えるなどのアドバイスも重要である。
専門的な治療では、加湿鼻マスクまたは顔面マスクを用いた持続気道陽圧(continuous positive airway pressure; CPAP)療法が、成人OSAの第一選択治療である。
CPAP療法がOSAの重症度、血圧、日中の眠気、睡眠関連の生活の質を改善することが示されている。ランダム化比較試験では、CPAP療法による心血管イベントの変化は認められていない。観察データでは、CPAP療法は全死亡率の低下と関連している可能性があったが、ランダム化比較試験ではこの効果は確認されなかった。
CPAP療法は重症度の改善効果(無呼吸低呼吸指数AHIの減少)が大きいため、初期治療として期待されている。米国では米国睡眠医学会と国防総省などが、症状のあるOSA患者全員と、無症状でもAHIが1時間あたり15回を超える患者全員にCPAP療法を推奨している。英国の医療技術評価機構(NICE)は、軽症以上(AHIが5~14)のOSAでもQOLや日中の活動に支障をきたす症状のある場合にはCPAP療法を推奨している。
しかし、日本では、日中の眠気、倦怠感などの自覚症状を認め、かつAHIがPSGで20以上(または簡易モニターで40以上)でないとCPAP療法が保険適応とならない。科学的根拠と患者の安全・安心を考慮してCPAP療法を早期に導入したくても壁にぶつかるのだ。
CPAP療法は、毎晩平均して使用する時間が長い患者で経過が良好であることが示されている。患者とOSA治療の専門家と協力しながら、行動科学的介入も取り入れてCPAP療法の使用状況の改善を目指すことも家庭医の役割だ。
CPAP療法に耐えられない患者に対する代替療法としては、使用するマスクの種類の変更、下顎前方移動装置、舌下神経刺激療法、その他の外科的介入などがある。
I.Y.さんは、STOP-Bang質問表では「S」「T」「G」の3項目で「はい」だった。仕事が増えたための過労の部分も大きいが、さらに詳しく話を聴くと睡眠中の息切れを自覚したこともあったので、睡眠障害専門外来のある病院へ紹介してPSGを実施してもらった。
結果は、AHIが15だった。中等症のOSAと診断できたが、保険適応の壁がありCPAP療法は導入できていない。目下、生活習慣の改善に努めている。
「『春眠暁を覚えず』なんて気分に早くなりたいものです」とI.Y.さんがつぶやく。
「ほんとうにそうですね」
