プーチンはウクライナについて妥協する兆しはなく、それどころか、中国との距離を強めている。習近平も強気の姿勢を崩していない。米国の関税に対し、報復関税で対応する姿勢を示している。
問題はトランプが蓄積したパワーをどのように使うことを意図しているか明らかでないことである。トランプは政策を真剣に考えているのか。それとも、トランプの政治への関わりは自己中心主義の現れであるとともにトランプ家の財務状況の将来を気にしていることでしかないのか。
トランプ自身もこうした問いへの答えを持ち合わせていないのかもしれない。しかし、今後の数カ月の内に行動が歴史におけるトランプの位置を決めることになる。良きにせよ悪しきにせよ、巨大な位置を占めることになろう。
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交渉を喜ぶトランプ
この論説は、米国外交の泰斗であるミードがトランプの関税政策の動機について自らのパワーの追求という観点から捉えたものである。トランプは、自ら「タリフマン」と称し、「関税ほど美しい言葉はない」と述べている。トランプを理解しようとする際、トランプの関税についてのこだわりを理解することは不可欠な作業と言えるが、そうした観点から興味深い論説である。
この論説が指摘するように、トランプにとって、関税が自らのパワーを発揮し、それを実感する政策手段であることは間違いないであろう。「相互」関税の発表以来、75カ国もの国が米国にその軽減・撤廃を求めて協議を申し入れたことがトランプの関税政策によって発揮されたパワーの大きさを物語っている。トランプは、各国の首脳が「電話をかけてきて私の尻にキスをしている」と言ったようだが、トランプはそうした状況を喜んでいるのだろう。
関税を巡る交渉が各国との間でどのように進むのかは今後の問題であるが、米国は、こうした交渉によって、従来の協議では得られなかった譲歩を得ることもできるであろう。国際政治学者のジョゼフ・ナイとロバート・コヘインは二人の共著による『パワーと相互依存』の中で、経済的な相互依存関係を活用することでパワーを発揮することができると論じたが、トランプはそれを意識的に行っている。
従来の国際ルールを無視し、米国市場の大きさという自分の「強み」を生かし、米国市場に依存する相手の「弱み」につけ込んで、相手の譲歩を迫る姿勢である。一方、貿易は相互依存関係なので、相手国が一方的に米国に依存しているわけではなく、米側も相手国に依存しているので、パワーといっても相対的なものである。
