トランプの関税政策は、「取引」のための交渉手段なのか、それともそれ自体が目的なのかが議論されているが、これは二者択一のものではなく、「どちらなのか」の議論にはあまり意味はないであろう。トランプにとって、交渉によって貿易相手国から譲歩が得られれば、それはそれで成果であろう。
一方、交渉が成立せず、関税の実施となっても、この論考が指摘するようにパワーを誇示することができることに加え、標榜していた経済メリット(の一部)を得ることはできるだろう。ただし、トランプの関税政策の狙いとしては、①貿易赤字削減、②製造業の呼び込み、③歳入の増加が挙げられるが、いずれも簡単なことではないだろう。
中長期的な国際関係は無頓着
トランプにとって経済と政治とは別物であり、いわば「政経分離」である。第二期トランプ政権となって、米国が同盟関係にどのような価値を置いているのかは、それぞれの国に応じて改めて評価し直す必要が出てきているが、同盟国に対する関税政策は「守ってやっているのに」という感情からかえってキツい当たり方になる可能性がある。
トランプの関税政策は、各国と米国との経済関係を変更することを意図しているが、それは、多かれ少なかれ、各国を米国以外の国に近づける結果をもたらすだろう。中国にとっては、米国との関税戦争は痛いが、各国との関係を深める好機でもある。現に、中国はさっそくチャーム・オフェンシブに出ている。
通常は経済関係が深まれば、政治関係にも影響を及ぼさないわけはない。それは経済面のみならず、米国の国際的地位にマイナスに働くであろうが、トランプ政権がそうした側面に顧慮することはなさそうである。トランプの関税政策について、いくつかの論説や解説記事が「自殺的行為」「自傷行為」という表現を使っているが、トランプ政権は、国際関係における中長期的な影響には無頓着な政権のように思われる。

