大阪生まれの作家
十六の話
司馬遼太郎(著) 中公文庫 990円(税込)
自分の声をテープで聞くと多少の嫌悪感があるように「私の大阪への感情もそれに似ている」と、大阪生まれの司馬遼太郎は言う。でも、嫌いにはなれない。本書には『大阪の原形』と『山片蟠桃のこと』という大阪にまつわるエッセイがある。大阪の街を歩いてから前者を読むと、その姿が具体的になってくる。例えば取材先の隣にあった靱公園。ここは肥料として使われる乾燥ニシンなどを扱う問屋街だった。それを運んだのは司馬作品にもある高田屋嘉兵衛(『菜の花の沖』)たちだ。後者は、「市井熱閙の地で経済を営み、かたわら学問をし、さらに自分の思想をそだてた」偉人についてだ。
「筋」と「通り」だけではない
大阪アースダイバー
中沢新一(著) 講談社 2310円(税込)
今は昔、大阪の市街地の大半は海の底にあった。現在の大阪城から四天王寺を通り、住吉大社付近にかけて長細い形で存在する上町台地から始まる大阪の歴史を、地形に沿って辿っていく。ナニワは淀川河口の砂州に形成され、その「誰のものでもない」土地から商人たちによる商品と貨幣の交換が生まれたとされる。無縁の原理の上に組合的連合をつくった大阪の文化は、東京とは全く異なる成り立ちであり、大阪は信用を基につながりをつくり出すまちなのである。
人を魅了するまち
大阪 ─都市の記憶を掘り起こす
加藤政洋(著)ちくま新書 902円(税込)
谷町筋に沿った一帯に「既製服」の問屋街、その南には「機械」の街区が存在する。一見関係ないように思える二つのまちの関係性は、軍事施設を中心とした、軍需関連の機械商と軍服の需要の拡大の名残だった。身寄りのない人を受容した梅田地下街から、名物である新聞スタンドが撤去された話を始め、地図だけではわからない、その土地の成り立ちを知ることができる。約30年にわたり大阪に惹きつけられる著者のように、あなたも大阪に魅了されるだろう。
