2025年5月13日(火)

お花畑の農業論にモノ申す

2025年5月2日

流通過程で「スタック」する備蓄米

 メディアは連日のように備蓄米がどこに置いてあるのか、スーパーや米穀小売店をまわって、限られたところにしか置いていないことを報じている。これは備蓄米を買い受けた全農が取引契約のあるパートナー卸に優先的に販売しているためで、多くは大手コンビニのベンダーや大手量販店、大手外食企業に販売されており、中小のスーパーや米穀小売店にはまわって来ない。

 実際、農水省が公表した備蓄米の販売数量等の報告結果によると、3月17日から30日までに備蓄米落札業者(全農・全集連)から卸に引き渡された備蓄米は落札数量21万トンのうち1%の2761トンに留まっている。

 農水省が定めた備蓄米の売買契約の約定では、落札業者(全農等)は「原則として玄米販売は行わない」ことになっており、全農等から玄米を買い受けた卸も原則玄米販売は行えないことになっている。このため玄米仕入を基本としている米穀小売店は備蓄米を仕入れることができなかった。

 4月14日に開催された農水大臣と全米販、スーパーの団体など流通業者の意見交換会には、日本米穀商連合会や東京都米穀小売商業組合といった米穀小売店の団体の代表者も入っており、農水省に対して備蓄米が仕入れられないことを強く批判した。こうしたこともあって農水省は4月16日付で売却要領を改正して米穀小売店が玄米仕入できるようにした。早速、日米連は自社のホームページで玄米購入が可能になったことを告知した。

 玄米販売の禁止を定めているのは農水省だけではない。備蓄米を受けた全農も販売先の卸に対して「条件備蓄米のお取扱いについて」と題するA4版23ページにもなる冊子を配布し様々な流通ルートの図を示し、赤字で玄米販売が禁止される事例を示している。さらにはQ&Aは28項目にもわたり、こまごまとした規制について触れている。

笑いが止まらない全農と農水省

 こうした規制を設けるのは玄米の転売で備蓄米が値上がりするのを防ぐためだとされているが、実際はどうだったのか?

 農水省が4月18日に公表した備蓄米の販売等の報告書で、流通段階ごとの価格を示している。全農から卸への販売価格は60キログラム(㎏)当たり2万2402円で買い受け価格との差額が約1000円であることから、農水省は「必要経費だけを上乗せした価格設定で販売された」とし、農水大臣は会見で「全農は備蓄米の利益を取らず」と話している。

 しかし、全農は、金利は農林中金、運送は全農物流、発注はアグリネットサービス、卸売りは全農パールライス、小売りはAコープとして、いずれの流通段階でもJAグループの企業を活用している。これで、「全農としては利益を取らない」とよく言えるものだ。

 また、卸から中食・外食や小売業者への販売価格は3万4023円であった。これについても農水省は「転売目的の価格操作が見られる水準ではない」と評価している。1俵1万2000円も上乗せして販売しているのだから、備蓄米を購入した卸は笑いが止まらないはずである。

 もっとも一番笑いが止まらないのは当の農水省だろう。なにせ23年産、24年産を平均1俵1万3000円で買い入れた備蓄米を2万1217円で売却したのだから1俵当たり約8000円の利益があったことになる。今回、解放した21万トンで280億円もの巨利を得たことになる。


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