2025年12月6日(土)

勝負の分かれ目

2025年5月8日

 プロ野球解説者の上原浩治氏は自身のヤフーコラム「上原浩治の野球に正解はない!」の中で、近年の野球がデータ重視の傾向を強める点に触れ、「物理学者や解析の専門家が数多くのデータから効果的な『答え』を先に導き、まるで選手が『ロボット』のようにその通りにフォームを作っていくということで、ベースボールや野球が『画一化』してしまわないかと危惧する」と指摘する。

 これは、昨年末のTBS系「情熱大陸」で、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏と松井秀喜氏が「最近のメジャーリーグはつまらない」と同調し、「勉強ができる人たちにねぇ」(イチロー氏)、「野球がそっちに支配されちゃってる」(松井氏)と、データが野球を支配する構図に警笛を鳴らしたことにも重なる。

 物理学者によって、打者が「芯」を外されているとのデータから魚雷バットが開発されたことは面白い発想かもしれない。また、ミスショットだけではなく、「芯」を内側に置いたスタイルが合う打者には適したバットともいえる。

 一方で、従来のバットで「芯」を外されないようにするには、どういうスイングをすればいいかと技術を磨くことはしなくなるかもしれない。選手がスイング技術を高めることでバットを操るのではなく、バットが選手の課題に対応した形状に変貌していくとすれば、近未来の野球は、データ重視によって開発された用具にアジャストできた選手が活躍するということになるかもしれない。スポーツニッポンの評論家を務める松坂大輔氏は同紙のコラムで「今後、さらにデータが増えればもっと違う形のものが生まれてくるかもしれません」と書き、上原氏はコラムで「”主役“は誰なのだろう」と嘆く。

抗う選手たち

 一方で、こうした流れにブレーキをかけようとしているのが、メジャーの一級品の投手たちだ。魚雷バットは、手元に芯を寄せたことで内角球への対応に力を発揮できる一方、先端部分は細く、外角に「弱点」があるとされる。

 開幕3試合で本塁打を量産したヤンキースの選手はその後、メジャー投手の外角攻めに苦しめられた。外角に弱点があるということはデータがはじき出したかもしれないが、そこに投げきることができるメジャーの投手たちの技術があってこその対策だ。

アーロン・ジャッジ選手は魚雷バットを使わずに活躍を見せる(AP/アフロ)

 開幕から打撃好調のヤンキース、アーロン・ジャッジ選手や、昨季に54本塁打をマークしたドジャースの大谷翔平選手は今季も従来のバットを使っている。日本のプロ野球でも、魚雷バットが定着するかは未知数だ。

 今後もデータがもたらす影響はさらに大きくなるだろう。一方で、プレーするのは選手である。駆け引きやメンタル面も含めた攻防にファンは酔いしれる。

 無機質なデータに、生身の人間がどう抗うか。魚雷バットの出現が示唆したのは、そんな近未来野球の「主導権争い」かもしれない。

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