中国が自らを自由貿易国と呼ぶのは厚かましいことだが、それは、トランプの貿易ショックが作り出した機会を活かすものだ。これまで、これらの諸国の中国に対する見方は愛憎相まみえるものだった。
ベトナム、マレーシア、インドネシアの全ては、南シナ海で中国と領有権問題を抱えている。彼らは、米国を中国の対抗軸として歓迎してきたが、同時に、そのためには米国市場への輸出アクセスが必要だ。
ベトナムとマレーシアは、トランプ第一期政権が脱退を表明する前は、米国や他の民主主義国と共に、中国を排除した 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を希望していた。もし米国がこれらの諸国に対し門戸を閉ざせば、中国は、その欠陥にもこだわらず、急速にこの地域で中心的存在になるだろう。
東南アジア諸国経済は引き続き発展途上にあり数百万数千万の貧困層が存在する。これらの諸国の指導者は、トランプの関税政策が何たるか不明な中で、貿易・投資枠組みを作ることをいつまでも待つわけにはいかない。
もし習の地域外交が成功したら、それは、トランプがその成功を容易にしたからに他ならない。これは、米国の貿易戦争がもたらす新たなコストと認識すべきだ。
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日欧に求められる多数派形成
トランプの関税政策が、貿易のみならず外交政策上も、米国にとってマイナスの影響を及ぼすことは、既に幅広く認識されている。ただ、若干認識不足があることを3点指摘したい。
第一は、これは、米中競争という限られた問題だけではなく、国際秩序に対してより幅広い影響があるということだ。われわれは、米国が国際紛争解決に関与しない世界の到来を見ているのであり、その世界では、国際秩序を維持する能力と意思のある限られた国々、具体的には、欧州諸国と日本、韓国、豪州、その他アジアの民主主義国が、国際紛争解決に一層尽力しなければならない。
一方、紛争解決には力が要るし、必ず、解決のために譲歩を迫られる全ての当事者から恨まれる。米国はこれまでその反発を、米国の力に対する「恐れ」で抑えてきたのだが、日欧はそれだけの力も無く、特に日本は恨みに対して極端に弱い。従って、「恐れ」に代わる、新たなガバナンス要素が必要なのだが、それは、おそらく国際社会の「多数派」による支持だろう。
自由貿易体制、すなわち、開発途上国の先進国市場へのアクセスは、多数派形成の上で特に米国にとって最も効果的な手段だったが、米国がそれを自ら捨て去り、友達を作るどころか敵を急速に量産している中で、日欧は多数派形成をする必要がある。端的に言えば、米国抜きでも引き続き自由貿易体制を維持・強化することが、国際情勢安定化のために日欧がやるべきことなのである。
