2025年7月9日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月14日

 トランプの知的問題のひとつは、貿易赤字の解消にこだわっていることだ。貿易赤字は経済的観点から問題視されるものではない。さらに、同盟国との間に通商問題があったとしても、それは2国間あるいは多国間のディールで解決できる。

 国際貿易の最大の問題は、中国の権威主義的政権による自由貿易ルールの悪用だ。しかし、トランプの場当たり的で、手当たり次第の関税政策は、この問題の解決につながらない。トランプは、中国共産党を打撃する以上に、自身の掲げる大義と米国を痛めつけている。

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貿易赤字は悪いことなのか?

 上記社説の主張は、安心できる正論だ。社説は、トランプの貿易赤字解消への拘泥を批判し、それを「トランプの知的問題のひとつ」だと言う。納得できる。

 社説は、「貿易赤字は経済的観点から問題視されるものではない。さらに、同盟国との間に通商問題があったとしても、それは2国間あるいは多国間のディールで解決できる」と言う。さらに、「国際貿易の最大の問題は、中国の権威主義的政権による自由貿易ルールの悪用だ。トランプの場当たり的で、手当たり次第の関税政策は、中国問題の解決につながらない」と主張する。

 貿易赤字自体が悪ではない。特にそれを2国間で均衡させよう、モノの貿易だけ均衡させようという考え自体が間違っている。

 国は、ある国に対しては赤字、他の国に対しては黒字となり、グローバルで均衡を図っていくべきものだ。さらに、貯蓄なども含めて、マクロ的に考える必要もある。

 米国の貿易赤字は、サービスの黒字や世界から流入する投資で埋め合わされている。トランプ政権は、経済は単なる積み重ねではなく、成長する生き物として、グローバルに、しかもダイナミックなものとして理解すべきだ。

 社説は、対中デカップリングにつき、「(全面的な適用よりも)重要な物品に対する戦略的デカップリングの方が理に適っている」と言う。対中全面離反は成功しないし、それは却って中国の一層の自律的発展を引き起こすことにもなる。

 対中デカップリングを言う前に、「フレンズ・ショアリング(友好国サプライ・チェーン強化)」を強化すべきだ。米国は、対中対応に当たって、サプライ・チェーンなどにつき同盟国等との連携強化を図るべきだ。

 今トランプがやっていることは、それと全く逆のことだ。関税や防衛で同盟国を痛めつけて、「米国第一ショアリング」を推進しようとしている。

 トランプは競争力のない産業を含めフルセットの産業を米国に戻そうとするつもりなのか。それは比較優位を無視した、敗北主義の産業政策になる。


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