今こそ求められるリアリズムの追及
もちろん、米国の現状を分析するというのは、国内政治が対象であるし、政治イデオロギーの批判という仕事も、ナイ氏の専門分野とは異なる。けれども、主観的なアプローチとなりがちな政治の分野に、徹底したリアリズムを持ち込んだのがナイ氏の業績であるとすれば、そのような態度というのは、今こそ必要とされる種類のものだ。そう考えると、逝去直前に遺した現状批判をもってナイ氏の遺言だと受け止めるのは、それこそが誤解であろう。
90年代のポスト冷戦という人類にとって未経験の時代において、徹底したリアリズムによって現実と対峙していったナイ氏のアプローチは、現代のような混乱の時代にこそ輝くのではないだろうか。
