2025年12月5日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年5月15日

 ナイ氏は亡くなる直前まで盛んに執筆などの活動を続けていたため、そこから伺い知ることが出来る。4月1日に公開された「世界秩序はどのように変化するか」という短い文章では、未来の歴史家が25年を、45年の第二次世界大戦終結、91年のソ連崩壊、08年の世界経済危機に匹敵する転換点として記す可能性に言及している。それは米国自らが自傷行為によって引き起こした転換点である。

 また、4月8日に発表されたポッドキャストでのインタビューでは、第二期トランプ政権の政策を具体的に批判している。「政権に就いて最初に言うことが、デンマークという北大西洋条約機構(NATO)同盟国からいかなる手段でもってもグリーンランドを奪うということ、あるいは、パナマ運河を奪還すると宣言し、これによりラテンアメリカ諸国におけるアメリカ帝国主義への猜疑心を再燃させるということ、あるいは、援助を通じてより米国を慈悲深く見せる機関である米国国際開発庁(USAID)を廃止するということ。要するに、これらの行動は、アメリカファーストでないどころか、アメリカのことだけを考えていることを示している」と痛烈である。

 このポッドキャストで、現状を改善する将来への提言を求められたナイ氏は、外国人留学生を受け入れ、教育を与えることの重要性を強調した。これはいまトランプ政権が行っていることと真逆のことである。

 また、エンターテインメント産業の重要性を指摘し、具体例としてテイラー・スウィフトに言及した。さらに、米国市民が自国政府を批判していることを自由なメディアが報道し、それを国外の人も含めて見ることが出来ることの重要性を挙げた。

今後も求められる知恵

 最後に将来への見通しを聞かれたナイ氏は、短期的に見れば悲観せざるをえないものの、「長期的な視点ではアメリカのソフトパワーについて楽観視している。なぜなら、私たちの社会にはレジリエンス(復元力)があると考えているからです」と答えている。このポッドキャストでナイ氏はこれまで同様活力ある様子だったので、もうこの声を聴けないのは嘘のようである。

 トランプ大統領は、米国に不公平として日米安保条約を頻りに批判しているが、このように日本を守るためになぜ米国民の税金を使うのかという批判は、実は90年代にもあった。その時にはナイ氏が、米国の防衛力の一部を日本に置く方が結局米国にとって安上がりであると説明してくれた。

 今のトランプ政権にナイ氏のような人物はいない。今後、ジョセフ・ナイがいてくれたらと思うような局面がますます増えてくるのではないだろうか。

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