2025年12月5日(金)

Wedge OPINION

2025年5月13日

 「ソフト・パワー」の名付け親で、米外交のけん引役の一人だったハーバード大名誉教授、ジョセフ・ナイ氏が死去した。アメリカは超大国であり続けるという信念のもと、同盟国を糾合し、強制や報酬ではなく〝魅力〟によって、世界のヘゲモニー(覇権)を維持すべきと説き続けた。日米同盟深化の強力な推進者でもあった。

(Shutterstock/アフロ)

 米国は、外交、安全保障でナイ氏と同じ考えを共有したリチャード・アーミテージ氏を4月に喪ったばかり。ナイ・アーミテージ路線とは対極の政治スタイルを貫くトランプ大統領が権勢をふるっているだけに、良識派重鎮を相次いで失ったアメリカ外交は〝負の転換期〟を迎えたと言えそうだ。

英米のメディア、一斉に訃報伝える

 ナイ氏の死去について、ニューヨーク・タイムズ紙は「ソフト・パワーを創造」との見出しで、「中国、北朝鮮への防塁として、日米同盟の再定義を実現した」と報じ、冷戦後の安全保障条約のあり方を規定した日米安保共同宣言(1996年)への貢献に言及した。

 英フィナンシャル・タイムズ紙も「ソフト・パワーを創造した国際関係のエキスパート」として「核不拡散をリードし、日米同盟を推し進めた」と、功績を偲んだ。

 トランプ政権からの目立った言及はみられなかったが、石破茂首相、林芳正官房長官が哀悼の意を表明し、首相は「対話や政策提言を通して日米同盟の強化に貢献した。多大な功績に敬意を表する」という弔辞を発表した。

 前月に亡くなったアーミテージ元国務副長官に続いての知日派要人の死去が日本政府を落胆させたことは想像に難くなく、それが首相による異例の弔辞となったようだ。

こん棒、ニンジンより魅力で

 ナイ氏は学究活動の傍ら、カーター政権(77年~81年)で国務次官補代理、クリントン政権(93年~01年)で国防次官補(国際安全保障担当)を務めた。

 氏が創造した「ソフト・パワー」という言葉は世界を席捲、日本でも、はやり言葉にもなった。外交だけでなく、組織同士のつながり、個人の関係を論じるときにもしばしば用いられた。

 ソフト・パワーとは、ナイ氏自身の言葉を借りると、「ハリウッド映画などの芸術、言論の自由、高い教育水準、自立した女性、慈善団体の活動、人種間の平等」(2025年3月のフィナンシャル・タイムズ紙コラム)などと定義される。


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