一方で、文化庁では10年度以降、若手アニメーターを育成する事業に注力してきた。毎年度4つのアニメスタジオを選出し、それぞれに約2000万円ずつ制作費を提供する。それを元手に若手アニメーターがオリジナル作品の制作に取り組み、OJTで技術の継承や向上を図るという内容だ。スタジオエルも21年度・22年度と同事業に参加した。同社取締役プロデューサーの釋迦郡卓氏は「経済的な恐怖観念を払拭した状態で人材育成に専念でき、極めて『正解』に近い支援だった」と評価する。
文化庁参事官(芸術文化担当)付参事官補佐の是永寛志氏は「23年度時点で、当事業開始以降の育成対象者353人のうち、その定着率は95%」だと明かしてくれた。若い人材の育成を、多忙な現場を離れない形で、予算的に支援することの価値は間違いなく高い。
マンガ業界に求められる人材
日本人が気付けない「価値」
マンガ業界ではまた別の観点から人材育成の必要性が問われている。
「今、求められているのは、作品や表現を理解して言語化できる人材。なぜなら、過去の作品をアーカイブ化したり、展示したりする需要が急速に伸びる時代が来ているからだ」
こう語るのは、日本唯一の「マンガ学部」を設置している京都精華大学理事長の吉村和真氏。
同大学ではもちろん、ストーリーマンガを描ける作家を育成する高度なカリキュラムも設けており、『ブルーロック』(講談社)の原作者として知られる金城宗幸氏など、数々の作家を生んでいる。
海外からの留学生も非常に多く、韓国には「精華閥」と呼ばれる卒業生の母体が存在するほど、国際的にも名高い大学だ。
一方で、「『この学部に入る学生はみんなマンガ家になるのか?』という質問をよく受けるが、決してそうではない。教育学部の学生が全員教員にはならないのと同じだ。マンガにおける表現方法やビジネスのイロハ、著作権や確定申告の仕方まで含めて学生には学んでもらい、それぞれがマンガを『コミュニケーションツール上の武器』として活躍できるよう育てている」と吉村氏は言う。
同氏が最近驚いたのは、マンガ学部に通う学生でさえ、その多くがいまや単行本ではなくスマホで作品を楽しんでいることだという。
「それが良い悪いということでは決してない」と前置きした上で、吉村氏はこう続ける。
「例えば古典的な作品のスキャンを見せながら『見開き』の使い方やその革新性を解説したりすると、学生たちのマンガの『見え方』が変わる。コマ・吹き出しの配置や目線の運動など、技術や表現を論理的に語れば、理解がさらに深まる。
つまり、紙かスマホの『どちらか』ではなく、『両方』の媒体の価値を知って、文化資源としての活用につなげられる人材を育成することが大切である」
ある作品を知っているのか、味わえているのか。つまり、同じものを見ていても、理解度に応じてその感じ方に差異が生まれるため、そこを埋められる教育が必要とされているということだ。
「日本ではマンガはあまりに身近な存在で客観視できないため『読めばわかる』『なぜ大学で学ぶ必要があるのか』と言われることもある。だが、私からすれば『そう思えば思うほど学ぶべき』となる。対象を客観的にとらえ論理的に語ることで、マンガの価値に改めて気づくということが、学問としての意味になる」
