2025年12月6日(土)

WEDGE REPORT

2025年5月18日

医療、モビリティ、家事サービスのクイックコマースも

 もともとは食料品や日用品を短時間で届けるサービスとしてスタートしたインドのクイックコマースだが、その射程はいま大きく広がっている。

 ヘルステック領域では、デリー発のスタートアップRepillが医薬品の1時間以内配送サービスを、2025年1月から一部地域で開始。処方箋のアップロードから配達までをアプリで完結させ、薬局と顧客を高速につなぐ仕組みを整えている。

 また電動二輪メーカーOla Electricは、オンラインで注文したスクーターをその日のうちに登録・納車する「HyperDelivery」を25年4月に一部地域で開始。登録プロセスを内製化することで、これまで数日かかっていたEV購入体験を劇的に短縮した。

 さらに注目したいのは、サービス領域での“クイックコマース化”だ。便利屋の派遣サービスを行うUrban Companyは、エステティシャン、電気技師や大工など技術者を90分以内に派遣するサービスを以前より展開している。

「75分以内に派遣」という選択肢が表示されている(筆者の「Urban Company」アプリのスクリーンショット)

 加えて、Urban Companyは、25年3月から、15分以内に家事スタッフを手配できる新サービス「Insta Help」を、ムンバイの一部地域で試験的に開始。掃除や調理補助などの家事サービスを、1時間あたり49ルピー(約80円)というキャンペーン価格で提供している。

左上に表示されているのが「Insta Help」(筆者の「Urban Company」アプリのスクリーンショット)

 また、フードデリバリーのZomato傘下のクイックマースサービスのBlinkitは、25年4月に救急車を10分で配車するサービスを試験導入し、話題を呼んだ。訓練を受けた救急隊員が搭乗する小型のBLS(基本的救命)救急車が、アプリからの呼び出しから10分以内に駆けつける。緊急医療へのアクセスが課題とされてきたインド都市部にとって、これは小さくない変化だ。

BinkitのCEOのAlbinder Dhindsa氏のTwitterより

日本企業が得られる示唆

 クイックコマースの普及によって、人々の消費行動は「計画してまとめて買う」から、「必要な時に必要なものをすぐ手に入れる」こともできるようになってきている。筆者自身、インドに住み始めてからは日用品のストックを最小限にし、不足した際に注文するスタイルが自然となった。

 この変化はモノに限らない。Urban Companyのような即時サービスの事例を見ると、“人によるサービス”にも同じ発想が浸透し始めている。特に、掃除や家事代行、ベビーシッター、高齢者ケアといった家庭内サービスは、計画的に利用するだけでなく突発的なニーズも多い。「少し高くても、すぐに来てくれる」選択肢に価値を感じる場面は、確実に存在する。

 また、こうしたニーズに応えるためには、テクノロジーを介した即時マッチングと安心の担保が不可欠だろう。レビュー評価や顔写真、身元確認といった情報を活用すれば、モノと同様に“サービスを呼ぶ”体験が成立しやすいと考えられる。

 日本でも、家族構成や働き方の変化が進む中で、こうした即時性と柔軟性を備えた生活支援サービスのニーズは、今後ますます高まっていくだろう。日本企業にとって、「必要なモノ・サービスが、必要な時にすぐ来る」仕組みを学ぶことは、次の時代の良い生活体験づくりのヒントとなるはずだ。

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