2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月26日

 エストニア警察国境警備局のベリチェフ局長によると、彼らは国境付近で絶えず GPS 妨害を行っているという。昨春、フィンランド航空は信号干渉のため、エストニア中南部の都市タルトゥへのフライトを1カ月間停止せざるを得なかった。

 エストニアは22年以降、ロシアからの入国を大幅に制限しているが、二重国籍者や欧州でその他の法的地位を持つ者は依然として入国できる。ロシアに居住、またはロシアに大規模な事業展開をしている二重国籍者は「容易に危険にさらされる」と、コイドゥラ国境警備隊の責任者であるピーター・マラン氏は述べている。国境警備隊は、国境を越える者たちから、携帯電話、メモリーカード、メモ、エストニアの要衝の写真など、不審な所持品を発見している。

 エストニア国民は、かつて国境の向こう側に不気味に駐留していたロシア軍をウクライナが足止めしてくれたことに感謝している。しかし、ウクライナに平和が訪れれば、ロシア軍は自由に行動できるようになり、NATOに対するロシアの脅威は高まるだろう。

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ロシアが本当に恐れていること

 NATO拡大がウクライナ戦争の「根本原因」ではないとする本件記事にあるエストニア外相等の見方に同意する。ただそれは、そもそもプーチがNATOを脅威と認識していないということではない。そうでなければ、記事にあるように、ウクライナ戦争以前にエストニア国境の向こう側にロシア軍が「不気味に駐留」することもないのである。

 プーチンがなぜにウクライナへの全面侵攻を決断したかという問題と、プーチンのNATOに対する脅威認識の問題は、基本的に異なる領域に属する。以下ではこれらの問題につき、政治・軍事的側面と精神的・思想的側面の両方の観点から述べておきたい。

 プーチンがNATOをロシアに脅威を与え得る敵対勢力であると見ていることは疑いない。2010 年代以降、カリーニングラードに地上軍やミサイル部隊を増強し、ベラルーシへの事実上の駐留を進め、クリミアを「不沈空母化」してきたのは、NATOに対する防衛態勢を築くために他ならない。これらの動きはウクライナ侵攻とは直接関係のない、プーチンの対NATO戦略に基づくものである。

 他方、ロシアの脅威認識を十分に理解するためには、その背後にある精神的・思想的側面をも理解する必要がある。その一つがロシアに特有の強烈な被害者意識である。


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