久しぶりに東京の湯島界隈を歩きました。ナショナルチェーンではない小規模な飲食店が立ち並んでいる様子は、どこか大阪のまちと似ているように感じます。そんな湯島の飲食店街の一角にあるのが「ゆしま花月」です。いつもセンスが良いお土産をくれる知人から、「かりんとう」をもらって食べると、香りの高さと食感の良さに衝撃を受けました。3代目の溝口智広さん(45歳)にお話を聞きました。
「昭和22(1947)年に、祖母が駄菓子屋を開いたのが始まりです。父が生まれてすぐに祖父が他界し、女性一人でもできるということで、親戚を頼って湯島でお店を出したのです。
かりんとうといえば、一般的には黒砂糖を使うため、黒っぽい色をしていますが、私たちの定番は、あげたままの色がそのまま出ています。これは、白砂糖を煮詰めたものを生地にからめているからです。
昔、職人さんが砂糖水を煮詰めすぎて飴にしてしまったそうです。それをもったいないからと、試しにかりんとうにからめてみたら、美味しかった。これが、『ゆしま花月』の定番になりました。香りが良いのは、温度の異なる国産こめ油で3度揚げていることが影響していると思います」
溝口さんは、美術大学を出てデザイン事務所などで働いた後、29歳の時に家業に戻られたそうです。ゆしま花月のホームページが洗練されているのは、溝口さんのデザイナー視点が生かされているからだと腑に落ちました。
「いつかは、家業を継ぐんだろうなと思っていました。戻ってからは、定番の朱色丸缶のデザインなど、当初の基調を大事にしつつ少しアレンジを加えたりしています。
家業を継いでから最も大変だったのは、やはりコロナ禍です。2017年には『GINZA SIX』に新店舗を出したのですが、撤退せざるを得ませんでした。でも、出店に際して新たにつくった『まゆずみ』という、黒ごまを使ったかりんとうは、ヒット商品になり、現在は看板の『かりんとう』に次ぐ人気商品です」