2025年6月17日(火)

食の「危険」情報の真実

2025年5月27日

毎日新聞はおわび訂正

 一方、ラウンドアップをめぐっては、15年以前から一部の学者が発がん性を指摘していたこともあり、大手メディアでも根拠のない記事を載せて、訂正記事を出すという苦いケースも見られた。

 そのひとつが毎日新聞の13年10月22日付朝刊だ。その記事は「農薬散布拡大 市民から批判 米企業、支配の手段に」との見出しで、南米アルゼンチンでラウンドアップを使うコルドバ市の大豆畑周辺地域でがん患者や奇形児の出産が増えていると報じた。これに対し、日本モンサント社などは記事の内容に科学的な根拠はないとして訂正要望を出した。

 これを受けて、毎日新聞社は同年11月30日付け朝刊で「複数の住民への取材でがんや奇形などの健康被害を紹介したが、EUなどではがんとの因果関係を認めておらず、コルドバ市の健康被害をラウンドアップが引き起こしたとする科学的証明はない。記事は健康被害とラウンドアップを直接的に結びつける印象を与えてしまい、モンサント社や関係者の皆様にご迷惑をおかけし、おわびします」(筆者で要約)との訂正記事を出した。

 間違った記事に対して、誠実に向き合って訂正記事を載せる毎日新聞社の姿勢はとても高く評価できるが、個人が匿名で勝手に自分なりの情報を発信するSNSの世界ではこういう誠実さは期待できない。

農業生産者を守るために

 その結果、インターネット空間ではいまなお「世界中でグリホサートが禁止されているのに日本では野放しになっている」「日本の農地はグリホサートで汚染されている」「グリホサートはアレルギーや発達障害の一因だ」などの誤った情報が氾濫している。

 こうしたSNS上の根拠なき投稿に対して、日産化学は何度となく警告文を出し、削除を求めてきたが、効果は上がらなかった。このため、ついに3月28日、複数の一般人(投稿者)を対象に損害賠償を求める訴訟を起こした。

 損害賠償請求の対象となった投稿内容は「ラウンドアップ製品の主成分であるグリホサートはベトナム戦争で使用された枯葉剤と同一である」「ラウンドアップ製品によって日本の国土が汚染されている」「ラウンドアップ製品は世界中で発売禁止になっている」の3つだ。

 ベトナム戦争で使われた枯葉剤はダイオキシン類を含む農薬だったが、日産化学のラウンドアップ製品にはダイオキシンは含まれておらず、グリホサートと枯葉剤は全く別物だ。ラウンドアップの有効成分グリホサートはいまも世界約150カ国で使われており、「世界中で禁止」は全くの誤りだ。グリホサートは土壌で速やかに分解され、国土が汚染されているという事実はない。

 同社は論点を3つにしぼった理由について、「訴訟を起こすからには、誰が見ても明らかに間違っている3つの事実にしぼって訴訟を起こした。日本の農業生産者の皆様には、農業経営の中でラウンドアップ製品を使っていただいているが、さも危険かのような情報があふれている中では使用しづらくなっていることを憂えている方もおられる。農業生産者の皆様に安心して使っていただくために訴訟を決意した」と話す。


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