クリス・ライト米エネルギー長官は、暗に高い再エネ比率を批判し次のように述べた「停電には同情を禁じ得ないが、成功が天候次第というリスクを伴うものであれば、相当の努力を必要とする」。スペインの野党も、政府の再エネ依存増と脱原発政策を安定供給確保の面から批判している。
スペイン社会労働党政権のペドロ・サンチェス首相は、「高い再エネ比率は停電の原因ではない」とする。太陽エネルギー協会なども「再エネは原因ではない」と主張しているが、根本原因や発端でないにせよ、インバーター電源が大規模停電を引き起こした可能性が高い。
サイバー攻撃は今回の停電の原因ではないとスペイン政府は発表しているが、サイバー攻撃に脆弱なインバーター電源のリスクも浮かび上がった。
サイバー攻撃に脆弱な再エネ設備
多くのサイバー攻撃の目的は、金だ。たとえばランサムウエアはデータへのアクセスを妨害し身代金を要求する。発電設備へのサイバー攻撃の理由は、金に加え政府に対する信頼を失墜させることもあるだろう。
21年デンマークの風力発電メーカー・べスタスがランサムウエアの攻撃を受け、システムの閉鎖に追い込まれた。
22年ドイツの風力設備保守事業者のドイツ・ウインド・テクニックがランサムウエアの攻撃を受け、2000基の停止を強いられた。他にも2件のサイバー攻撃によりドイツの風力発電量は影響を受けた。
インバーターを持つ設備は、通常ネットワークで結ばれ、製造事業者、設備設置者、送電網管理者など多くの関係者によりアクセス可能になっているし、情報もクラウドで共有される。そのため、サイバー攻撃を受けるリスクも高くなる。
大規模太陽光設備、風力発電設備が攻撃を受ければ、その影響は大きい。英国政府は、将来の原子力発電設備建設を中国企業に任せる方針を撤回したが、その理由は大規模電源へのサイバー攻撃の可能性だった。
再エネ電源を増やす日本は、これから停電の危機に直面しないのだろうか。
2040年停電する?
今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、50年脱炭素を目指し、再エネ設備の発電量の大幅増を想定している(表-2)。
10年頃から日本の電力需要は波を打ちながら減少しているが、これから生成AIの利用を支えるデーターセンター、電気自動車(EV)などによる電力需要の増加が見込まれ、40年の需要は今から1~2割増える想定だ。
太陽光発電設備は今の3倍程度に伸びる可能性が高いが、その容量は2億kWを超えるだろう。
24年度の全発電設備容量3億2000万kW(図-3)と比較すると、過去10年間で増加した太陽光設備が、さらに大きなシェアを占めることが分かる。
非同期電源の供給量が大きく増える結果、停電のリスクも高まる。一つは周波数などの変動によるインバーター電源の停止。もうひとつはサイバー攻撃による停止だ。
リスクを回避する方法はあるが、大きな投資が必要だ。再エネ設備の導入には送電線の増強も同時に必要だ。
40年に安定供給を実現するための費用はいくらになるのだろうか。その時私たちはいくらの電気料金を支払っているのだろう。
脱炭素だけではなく、安定供給と電気料金の面から、エネルギー、電力供給を考える時だ。


