2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月12日

 ロシアが不気味な脅威となり、欧州が自身の防衛のために遥かに大きな負担を背負う必要がある時に、欧州の数ヵ国が防衛のような重い分野における進展を漁業のような小さな産業についての英国の譲歩に係らしめることを選択したことは遺憾なことである。

 労働党は、その野心の欠乏とEUの単一市場、関税同盟、移動の自由に戻ることはしないという選挙公約のレッドラインのゆえに、昨年の政権交代後のブリュッセルの善意を無駄にしたと言えるかも知れない。今回のリセットはそのレッドラインの幾つかの限界を押し上げることを少なくとも試みるものである。

 スターマー政権は、EUと規制を揃える野心的な再編に向けて、今回のリセットをその基礎として使わねばならない。

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関係改善への一歩

 5月19日のロンドンにおける英国とEUの首脳会談の結果、「共通了解(Common Understanding)」と題する文書が公表された。双方の間の広範な協力分野を列挙しているが、この社説が紹介している安全保障・防衛協力、衛生植物検疫協定、排出権取引制度の結合、英国海域における漁業権、その他社説には言及はないが不法移民対策などについての大筋の了解が書き込まれている。

 共通了解とされていることからもうかがえるが、書かれていることは具体化に向けて今後作業して行くためのロードマップといった性格のものである。

 スターマーは、EUとの関係の改善と強化を約束していた。歴史的という彼の自己評価は大袈裟だが、今回の合意が有意義な一歩であることは間違いない。

 保守強硬派はBrexitの裏切りだと非難しているが馬鹿げている。EUとの貿易面などの摩擦を解消する実際的な措置であり、Brexitがハードであることに何ら変化はない。

 双方の関係リセットを双方に強く促した要因は、ロシアの脅威を前にした欧州による欧州全体の防衛能力の強化の差し迫った必要性であったと思われる。欧州有数の防衛能力と防衛産業を有する英国とEUの双方が参画する協力体制を確かなものにするに当たって、相互の貿易その他の問題の調整は避けて通れなかったということであろう。


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