2025年6月19日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月11日

 2025年5月15日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説が、トランプの世界は不確実な世界だ、トランプのやり方では長期計画の策定は無駄で、企業にとり最も合理的な対応は様子見であると述べている。

(SeanPavonePhoto/gettyimages・dvids)

 企業にとって、拠点の移転、人材採用、製品の発売等の意思決定は、経済動向についての経営陣の予測に基づく部分が大きい。しかし、トランプの米国では、来年の経済がどうなるかについても予測困難だ。

 「不確実性」や「関税」という言葉が、今季の米国企業の決算説明会を席巻している。トランプの世界貿易戦争から生じる結果の幅は余りにも広いため、経営者達は意思決定に踏み切れない。多くの企業は、売上や利益の見通しを控える判断までしている。

 トランプの二期目の発足から3カ月、米国の経済政策に関する不確実性指数は、コロナ禍を上回る水準だ。トランプは予測不能さを武器にしている。

 先月、ベッセント財務長官は、トランプが「戦略的な不確実性」を利用して貿易交渉で優位に立とうとしていると述べた。熱狂的な期待感を煽ることは、トランプにとり注目を集める手段だ。

 過去には、不動産開発業者からメディアのスターへと転身した彼にとって、こうした手法は取引を押し切る際や視聴率を稼ぐ上で効果的だったかもしれない。しかし、世界最大の経済を運営するとなると、これは非常に有害だ。

 特に、関税交渉に対するトランプのアプローチは、米国企業の活力を削いでいる。輸入関税が国や業種によって月単位で数十ポイント変動する可能性がある中で、経営者がグローバルなサプライチェーンの計画を立てることは不可能だ。関税は利益率の計算に欠かせない要素であり、国際企業にとり最も複雑な法令遵守の一部でもある。

 貿易協定には、国境を越えた商取引と投資を促進する効果があることが実証されている。それは、通常、安定的かつ透明性のある取引条件を長期的に保証するからだ。

 しかし、トランプは数カ月単位で物事を進めている。たとえ、最近の英国や中国とのように「相互」関税に関する合意をしても、その関税率が維持されるという信頼は低い。


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