フジテレビの新たな「傑作」となるか
被害者が加害者になる、異色のサスペンスである。関西テレビ・フジテレビは、直木賞作家・金城一紀の脚本による、サスペンス・アクションドラマでヒットを飛ばした歴史がある。「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(2017年)「SP警視庁警備部警護課第四係」(07~08年)である。
フジテレビが若手の脚本家・生方美久を起用した「silent」(22年)「いちばん好きな花」(23年)「海のはじまり」(24年)は、ドラマ史に残る作品である。
中居正広氏と女子アナウンサーを巡る一連の事件によって、フジテレビのレピュテーション(評判)が堕ちたところから、立ち上がるためにはコンテンツ制作能力にかかっている。「あなたは」は、北川景子にとっても、フジテレビにとっても重要な分かれ道のひとつである。
北川景子の主役だけではない魅力
北川景子の一般的なイメージは、主役を張ってきた美貌の女優というところではないか。本作は文句なく主役である。
彼女のフィルムグラフィーは、映画『スマホを落としただけなのに』(中田秀夫監督、18年)における、犯人に追い詰められる被害者のヒロイン役が一つで、恐怖に包まれて、ヒッチコック監督の一連のスリラーを思わせる演技だった。ドラマ『家売るオンナ』(日本テレビ、16年)の敏腕の不動産販売社員役もまた、主役にふさわしい。
ただ、筆者が観る北川景子の魅力とは、そうした主役の面もあるが、それ以上にヒロインを脇で支えてともに輝いているところにある、と考える。
映画『キネマの神様』(山田洋次監督、21年)では、ヒロインの食堂の娘役の永野芽衣と助監督役の菅田将暉の恋の橋渡しをする、大女優役である。
浜辺美波の今日までの女優人生の転機となった映画『君の膵臓を食べたい』(月川翔監督、17年)では、浜辺美波が演じた桜良の友人で花屋の恭子役である。桜良の友達で成人した高校教師の小栗旬とともに、住野よるの原作には登場しない役柄である。
欅坂46のセンターだった平手友梨奈の役者としての才能を魅せた映画『響き~小説家になる方法~』(月川翔監督、18年)において、破天荒な天才作家役の平手の担当編集者役として、平手を世間から守ろうとする演技も忘れがたい。
これまでの北川景子は「バイプレーヤー」といえるだろう。主役よりも演技が劣っているのではない。バイプレーヤーは映像作品になくてはならない名優なのである。
不惑を前にして、北川景子も飛躍の時代を迎えている。主役とバイプレーヤーをこなせる俳優はそれほど多くはない。さらに、「大女優」と呼ばれるような本格派に脱皮する機会が訪れている。
