2025年12月5日(金)

「教えない」から学びが育つ

2025年6月20日

山本:泰子さんに対しても「教えない」を徹底されていたんですね(笑)。

木村:それでも研究授業をしなければいけない私は、勇気を持って先生に「指導案について相談させてください」と言いに行きました。すると先生は「指導案? そんなものはいらないよ」「次の時間が算数なので、さっそく授業を担当してもらいましょうか。今日の課題はこれです」と。

 課題さえ明確になっていれば授業はできるだろうと言うんです。そんな日々が続いて、自分はこの教室にいてええんやろか……と悩み、悶々として給食もろくに食べられなかったのを覚えています。それでも自分が何をすべきかを必死で考え、ノートに日々の授業記録をまとめ続けていました。

山本:僕も同じ立場の教育実習生だったら、悶々としていただろうと思います。

木村:そんな2週間が終わりを迎えるタイミングでその学校の教頭先生に私だけが呼ばれ、「あなたは世界一幸せな実習生だ」と言われました。「あなたが配属された5年2組の先生は教育の神様なんだよ」と。

 でも当時の私は何も教えてくれないその先生を恨んだし、「あかん、この学校は教頭まで変な人や!」なんて思っていたんですよね(笑)。だけど、5年2組の教室にはとても意欲的に、自らで学びを得ようとする子どもたちの笑顔があったことは事実です。このクラスで目撃した子どもたちの姿を自分が実現するにはどうすればいいのか、その後の教員人生を通してずっと考え続けることになりました。

紙吹雪を床にまき散らす道徳の授業

木村:そういえば、その先生の道徳の授業も強烈でしたね。これは現役の先生たちにとっても大いに参考になるかもしれません。

山本:ぜひ詳しく知りたいです。

木村:授業開始のチャイムが鳴って先生が入ってきても、子どもたちの机には何もありません。先生は無言でたくさんのわら半紙を取り出し、それを折って、びりびりとちぎって、教卓の上に紙吹雪の山を作っていきます。それを子どもたちはじっと見ている。

 次に先生がその紙吹雪を手に持って子どもたちに向けてぶわっと吹きかけると、床中が紙だらけになります。そこで先生は初めて「みんなで掃除してくれる?」と発話。そうすると子どもたちが一斉にほうきやちりとりを取りに行き、ものの1〜2分で教室はきれいになりました。

 そして先生は二言目に「ありがとう」、そして三言目に「どうして掃除の時間は今のようにきれいにできないんでしょう?」と問いかけるんです。たったこれだけ。

山本:なるほど……。考えるきっかけを与える問いですね。「教えない授業」は子どもが自分で考えて、決めて、行動する授業ですから、考えるきっかけを作ることは大切ですね。

木村:掃除の時間なんて、子どもたちはどうしてもサボりがちですよね。でもその授業が終わった後は、みんなちゃんと仕事をするようになるんですよ。

 「この授業なら私でもできる!」と思って、教室に入るところから真似しました。だけどなかなか同じようにはいきません。無言で教室に入り、紙を折り始めると、子どもたちが次々と「先生、何してるん?」と声をかけてくるんです。

山本:普通はそうなりますよね。

木村:あれ、これは予定にないぞ? と思いながら紙を破り始めたら「先生、何で紙を破るん?」。それでも我慢して無言で紙吹雪を作り、ふわっと撒いて「掃除してくれる?」と発話したら、「自分で撒いたんやから先生が掃除しいな!」って。

山本:僕が子どもだったらそう言うと思います(笑)。


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