2025年12月5日(金)

「教えない」から学びが育つ

2025年6月20日

「右側通行」のポスターが子どもの考える力を奪う

木村:その時に初めて、私が目撃した道徳の授業との違いを考え、授業というものを見つめ直すようになりました。教えない授業とは、教員がやり方を変えるだけでは実現しないのではないか。

 学び方を一人ひとりの子どもたちがきちっと獲得していることがベースになければ成立しないのではないかと。学び方も獲得できず、ただ一方的に教えられ続けている子どもは幸せに学べませんよね。

山本:強く共感します。学び方を手に入れるという点では子どもたちを誰一人取り残したくないですね。それと主体性ですね。子どもたちは誰しもが本来、「知りたい」「学びたい」といった主体性を持っているはず。でもいろいろな学校現場を見ていると、掲示物一つとっても、取り残す子どもを生んでしまい主体性を奪っていることが多いのではと感じます。

木村:それは私も大いに感じますよ。講演などでさまざまな学校にお招きいただきますが、廊下に「右側を歩こう」というポスターが貼ってある光景を本当にたくさん目にします。これが大きな問題。この掲示物がある背景には「この学校の子どもたちはみんな右と左の違いが分かる」という前提があるからです。

山本:右と左の違いが分からない子どもを取り残してしまっている可能性があるわけですね。

木村:はい。私が知っている重度の知的障害がある子どもは、右と左の認識がありません。だけどその子は自分の意思を持っていて、自分なりに思いを表現できます。しかし「右側を歩こう」というルールが存在していると、その子は支援担当の力を借りて右側を歩かされることになる。

 誰かを取り残すか取り残さないかという以前に、「すべての子どもができること」を最上位の目標にすべきではないでしょうか? 良い姿勢で座りましょう、黙々と掃除しましょう、手を挙げてから発言しましょう……。

 それらの教えがすべての子どもができることならいいのですが、実際はそうではありません。校内では右側を歩くという、70年以上も前から脈々と受け継いできた文化がどれだけの子どもを排除してきたか。それを問い直さなければいけないと思っています。

山本:無意識な排除が起きないようにするために大空小学校ではどのようにしていたのでしょうか?

木村:「廊下は人とぶつからないように歩きましょう」。これだけです。大空小学校でも、開校当初は「右側を歩きなさい!」と口酸っぱく言っている教員がいました。でもなんで右側なの? と問い直したら、「他の子どもとぶつからないようにするためです」と返ってくる。それが目的なら、どこを歩いていてもぶつからないようにお互いが気をつければいいだけですよね。

 学校のルールも「廊下はぶつからないように」だけにすれば、相手が左側を歩いてくれば自分は右側を歩けばいいと判断できます。すべての子どもが自分で考えて行動すればいいんです。大空小学校にはいろいろな子どもがいますが、9年間、廊下や階段でのケガはゼロでした。

 たかが「右側」という指示かもしれない。でもこうしたルールを問い直し、変えていくことで、必然的にすべての子どもが本来の力を取り戻していくはずです。

山本:なるほど、そう考えると学校では無意識の排除がたくさんありそうです。他にも一斉教授型の授業や宿題、テスト、学校行事、さらにはトイレなどの物理的な観点からも、無意識に排除してしまうことがたくさんあります。DE&I、つまりダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括)の視点で学校を見直すことが大切ですね。

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