2025年5月16日(金)

「教えない」から学びが育つ

2025年5月9日

千代田区立麹町中学校や横浜創英中学・高等学校などで、日本の教育改革の先頭を走ってきた工藤勇一さん。今の学校教育で失われていく子どもたちの「主体性」を取り戻すことが必要だと強く主張します。それを実現するために、これからの学校に求められる役割とは何なのか。工藤先生と学校改革を進めてきたからこそ語れる、改革の秘訣とは。

改革を進めるなら
「正反対の考えの人」がいたほうが良い

山本:工藤さんは改革を進める中でよく「リスキーな方向にシフトしないように気をつけよう」と僕たち教員に語りかけていますよね。この言葉の真意を改めてお聞かせください。

工藤:何かを改革しようとすると、人はつい気心の知れた近しい人だけを集めて物事をスムーズに進められるイケイケのチームを作ってしまいがちです。しかしその進め方では、組織内の一般的な考え方とは乖離が生じてしまうかもしれない。この「リスク」を避けるためには、自分とは最も考え方が離れた立場の人をチームに引き入れることが大切。組織や物事のあり方を変えるために、遠回りをするべき時もあるんです。

工藤勇一(くどう・ゆういち)
1960年山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県・東京都の公立中学校教諭、新宿区教育委員会指導課長等を歴任。千代田区立麹町中学校校長、私立横浜創英中学・高校校長では学校改革を実践。現在、FC今治高等学校里山校 エグゼクティブコーチ、東明館学園教育アドバイザー等多数の教育関連機関に関わる。『「目的思考」で学びが変わる』(多田慎介著、ウェッジ)他、著書多数。

山本:思い返せば、僕が 『なぜ 「教えない授業」 が学力を伸ばすのか』 (日経BP)を執筆した時も、考え方が真逆の教員が学年にいたからこそ、自分の理念が分かりやすい言葉になったんだと思います。その時、自分の意見に反対する人というより、異なった意見を持った人と対話するという感覚が生まれました。

キャプション

工藤:私自身、プロジェクトを立ち上げる際には必ず自分とは正反対の考えの人を入れていますから。

山本:以前の僕には、新しい学校を作ろうと思うなら気心の知れた仲間を集めるべきだと考えていた時期もありました。でも今はそうは思いません。考え方の違う相手とも最上位の目的のところで握手することから始めれば、その下にある手段の議論でブレることがないからです。むしろ気心の知れていない、正反対の人がいたほうが、多様な意見をプロジェクトに反映することができてラッキーなのかもしれません。

 最上位の目標といえば、工藤さんの優先順位は常に「子どもたちのため」という一点からブレないですよね。

工藤:物事を判断する際の優先順位はいつも子どもたちが一番、次に保護者、そして教員ですね。もちろん私は子どもも保護者も教員もすべてを救いたいと思っていますが、状況によってすべてを救えない時には、絶対にこの優先順位をブラさないようにしています。


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