山本:現実には、この優先順位が明確になっていない学校も多いのかもしれません。
工藤:そんな状況に陥っている時には、立ち戻るべき場所があることが大事なのだと思います。そのために重要な役割を果たすのが言葉。教員を続けていると、つい学校ファーストで動いてしまっていることに気づいて悩むこともあるでしょう。そんな時には「最上位の優先順位は何だろう?」と問いかけ合うべきです。
どんな状況でも、子どもたちを守れるなら、子どもたちのためになるのなら、まずはOK。その次に保護者の心情に応えるために動き、そして教員も新たな学びを得られるようにする。この優先順位に従って考えれば、判断に迷うことはないはずです。
向き合うな
横に立て
山本:子どもたちに選択権を与え、それぞれが当事者になると、子どもたちの間に潜んでいたトラブルの種が見えやすくなる側面もあります。そんな場面で僕は、工藤さんの 「トラブル対応のスキル」が多くの教員の自信につながっていると実感します。
トラブルがその生徒の自律への学びに変わり、教員との関係も良くなります。保護者も教員を信頼するようになり、感謝が生まれます。こういったトラブルを解決するスキルを持てばトラブルが怖くなくなり、教員のメンタルがさらに安定していく。子どもたちの主体性とトラブル対応のスキルは、働き方改革とも一体になって「学び方改革」を支えているのだと改めて感じました。
工藤:すべてがつながっていますよね。トラブル対応もそうだし、授業も支援方法もそう。昔ながらの日本の学校教育では、それらを教員の属人的な職人技で乗り越えてきた部分がありました。うまい授業も職人技だし、トラブル対応も特定の教員の人間性が発揮される職人技だった。だけど私が持っているトラブル対応のスキルは、属人的なものではなく誰でも実践できるものです。
山本:僕も工藤校長の対応を間近で見て、とても論理的で再現性の高いスキルだと実感しています。トラブルの過程ごとに、教員はどんなセリフを発するべきか。そうしたスキルが体系化されていて、確かに誰でも実践可能だと感じましたね。
工藤:山本さんも参加した麹町中学校での「脳科学を活用した教育環境及び指導方法の研究」で私の経験を論理的、科学的に紐づけていきました。
山本:これらのスキルは一斉に研修を通して頭で理解するより、OJTで経験を通して体で覚えていくのがいいと思いました。僕も工藤さんの保護者対応に同席し、学んだことを実際に自分で実践する時に複数の教員と一緒に行います。
工藤:横浜創英の教員はOJTをベースにスキルを広げていますね。自分の目で見て、自分でやってみて身に付くスキルは一生ものです。
山本:特にトラブル対応の優先順位は全国の先生に伝えたいです。一番優先すべきことは、「生徒本人の自律への学びにすること」。次に「教員とその生徒の関係が良くなること」。そして、「保護者の学びに変えること」「保護者と教員の関係が良くなること」。この順番が大事で、最初の2つは絶対達成しようという意識で慎重にセリフを選んでいくことを教員間で話し合っています。