工藤:はい。だから私たち教員は高い専門性を磨き続け、自信を持たなければいけません。例えば私は不登校の子どもの保護者にも「絶対に心配ありません」と言い切ります。だけど専門性や技術がない教員はそこまで言えません。
山本:新学期に保護者を前にして「私に任せてください」と言い切れない新任教員も多いのではないでしょうか。
工藤:これが一般企業だったらどうでしょうか。セールスに来ているのに自社製品のことを何も知らないようでは、若手であろうとベテランであろうと顧客からの信頼を得ることはできませんよね。教員の場合は正直であること、謙虚であることを美徳のように捉える人も多いのですが、それは保護者にとっては何の意味もないと思うんです。「心配ありません」ときちんと言えることが大事。もし自分が若手で技能が足りないと感じるなら、専門性を持つ先輩に力を借りればいいだけの話です。
子どもたち自身のアイデアで
問題を解決することに挑んでほしい
工藤:ただ、こんなふうに偉そうなことを言っている私自身も、若い頃はスキルや技術が追いつかずに空回りしたこともあったんですよね。野球部の顧問をしていた頃には、子どもたちについ怒鳴り声を張り上げてしまったこともありました。
山本:工藤さんが子どもたちに怒鳴り声を。それは意外ですね。工藤さんの話を聞いていると、それこそ子ども時代から今に通じる軸を持っていたのではないかとも感じます。
工藤:どうでしょうか。子どもの頃は目立つことが嫌いで、学級委員なんて立候補したこともありませんでしたけどね。
山本:そういえば以前、横浜創英の子どもたちに、工藤さんの小学校時代の通知表を公開したことがありましたよね。
工藤:全校集会で自分の通知表の所見欄を見せました。小学校時代は「字が極端に下手」「机の中が乱雑」などと書かれていたんです。今にして思えば「当時の先生はすごいことを書くなぁ」と感じますが(笑)。子どもたちにはこの通知表を踏まえて、「だから人なんて、どう変わるか分からないよ」と語りかけました。中学生や高校生は1年で大きく変化する。60歳を超えた私の1年間には大した変化はないかもしれないけど、君たちの1年間は人生の中でも特別な時期なんだよ、と。
山本:僕はずっと勉強や学校生活に苦手意識を持つ子どもをフォローしてきたつもりですが、「今は変化できる時期なのだ」という言葉は伝えられていなかったので、これも大きな学びになりました。改めて、工藤さんはこれからの学校の未来像をどのように描いていますか?
工藤:どんな子どもも主体的に学べるようにすること。多様性の中で対立が起きることを前提に民主的な対話のあり方を学んでいくこと。そして、社会の問題を解決するために自分が何をすべきか、リアルな学びを得られるようにすること。それがこれからの学校に求められる役割だと信じています。山本さんが中心になって動いてもらっている「学びの選択権の提示」はその第一歩。今後は学校運営そのものの裁量をさらに子どもたちに委ね、子どもたち自身のアイデアで世の中の問題を解決することに挑んでほしいと思っています。