2025年5月13日(火)

「教えない」から学びが育つ

2025年5月9日

工藤:これは優れたカウンセラーの技術に似ているのかもしれません。相手の状況を読み解き、適切なセリフを投げかけて本人の中にある答えを引き出していくんです。決して「自分が直してあげる」わけではありません。本当に優れた教員やカウンセラーとは、相手が本来持っているはずの幸せを感じる力を掘り起こしていく人を指すのではないでしょうか。

 しかし、特に若手の教員の場合は、子どもの悩みに親身に向き合っていくうちに一緒に潰れていってしまうこともあります。子どもにとって本来はそこまで大きな悩みではなかったのに、教員が親身になり過ぎたことで、かえって悩みを大きくしてしまうことも

山本:工藤さんはよく「向き合うな。横に立て」とアドバイスしていますよね。答えを子どもに教えるのではなく、その子自身が解決できるように支援することが大切なのだと。

工藤:はい。優れたカウンセラーの場合は、「私が今、話を聞かないほうがいいかもしれない」とあえて突き放すこともあるんですよ。

技術のない教員は
子どもたちを救えない

工藤:例えば、学校内で生徒同士がケンカになってしまったとしましょう。結論から言えば、トラブルを解決するのは子ども同士であるべきです。どうしても子ども同士で解決できなければ保護者が間に入らなければいけないかもしれませんが、いずれにしても教員の仕事は、起きてしまったトラブルを子ども同士の学びにつなげていくことでしょう。

 しかし多くの教員はこうした事態にあたふたしてしまい、 「保護者からのクレームに発展するかも」 「学校の管理責任が問われてしまうかも」 と及び腰になってしまう。本当に大切なのは、子どもの自律的な学びのために大人は何ができるかを保護者と一緒に考え、そのために必要な情報や考え方を伝えることですよね。

山本:これが 「横に立つ」 ということですね。しっかりと相手に伝える技術を教員みんなが実践できるようになり、実際に現在の横浜創英では、教員だけでトラブルを解決できるケースが増えました。一般的に考えると後を引いてしまいそうなトラブルでも、最後は保護者に感謝してもらえるようにもなりました。

工藤:教育の世界では、こうしたスキルや技術を避けてきた面があるのかもしれません。背景には熱血学園ドラマなどの影響もあるでしょう。しかし、教員として子どもたちにどれだけ愛情を持っていても、子どもたちの学びにつなげる技術を持っていなければ意味がないんです。どれだけ熱い思いを持っていても、専門知識や技術のない外科医は人の命を救えません。それは教員も同じです。

山本:専門性がなければ子どもたちを救うことができない。

山本:学校でも授業が上手な先生は膨大なインプットをして準備しますが、実際に授業でアウトプットするのはその一部だけです。一方で、経験が浅い先生は、準備したものをすべてアウトプットしようとしてしまう傾向があります。

 

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