2025年5月16日(金)

「教えない」から学びが育つ

2025年5月8日

 千代田区立麹町中学校や横浜創英中学・高等学校などで、日本の教育改革の先頭を走ってきた工藤勇一さん。今の学校教育で失われていく子どもたちの「主体性」を取り戻すことが必要だと強く主張します。それを実現するために、これからの学校に求められる役割とは何なのか。工藤先生と学校改革を進めてきたからこそ語れる、改革の秘訣とは。
工藤勇一さん(左)と著者(右)

日本の教育が変わると実感した
「教えない授業」との出会い

山本:こうして工藤さんとじっくり対談するのは初めてですね。同じイベントに登壇して話す機会はありますが。

工藤:何だか照れくさい感じもしますね。今日はよろしくお願いします。

工藤勇一(くどう・ゆういち)
1960年山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県・東京都の公立中学校教諭、新宿区教育委員会指導課長等を歴任。千代田区立麹町中学校校長、私立横浜創英中学・高校校長では学校改革を実践。現在、FC今治高等学校里山校 エグゼクティブコーチ、東明館学園教育アドバイザー等多数の教育関連機関に関わる。『「目的思考」で学びが変わる』(多田慎介著、ウェッジ)他、著書多数。

山本:工藤さんとは、学校改革の先にある学校の未来像についてお話ししていきたいと思います。振り返ってみると、僕が工藤さんと初めてお話ししたのは、僕の以前の所属校で授業を見学してもらった時でした。

工藤:私から山本さんに連絡を取って会いに行ったんですよね。ある人から「英語科で面白い授業をしている教員がいる」と紹介されて知ったのが山本さんでした。実際に授業を見学し、これまでに見たことがない進め方を目の当たりにして驚いたのを覚えています。いわゆる基本構文などをまったく教えず、ずっと子どもたちが英語で会話して学び合っている。「これなら子どもたちは、一方的に先生の話を聞いている一斉授業を受ける時のように暇にならないな」と感じました。

山本:そもそも校長自らが、英語科の教員を伴うわけでもなく自分自身の意思で授業を見に来るということ自体、僕には初めての経験でした。

工藤:私にとっては普通のアクションなんですけどね。山本さんの授業を見て、頭の中にあったパズルが少し解けた気がしたんですよ。私はずっと一斉教授型の授業の限界を感じていて、自律型が必要だと思いながら模索し続けていた。「子どもだけで学ぶ方法がある」という確信を持つようになったのは山本さんに会ってからです。同じことをすべての教科でやれば、きっと日本の教育は変わると。

山本:僕が展開する「教えない授業」に対してこんなふうに興味を持ってもらえたことも初めての経験でした。それまで勤めていた学校では僕の取り組みが全体に広がることはなかったし、僕自身、広げようという意識もなかったんです。だから大きなターニングポイントとなる出来事でした。その後は工藤さんが当時校長を務めていた千代田区立麹町中学校の教員が、3日間ほど朝から晩まで僕に張り付いて授業の進め方を見てくれましたよね。

工藤:はい。山本さんの授業を徹底的に見てほしいと声をかけて送り出しました。

山本:それから、麹町中学校の一部の教科では「生徒自らが学ぶアクティブ・ラーニングの授業」と「教員が教える授業」に分かれ、生徒が好きな方を選択できるようになったと聞きました。この考え方は、現在の横浜創英の教育改革のヒントにもなっています。

山本:学校でも授業が上手な先生は膨大なインプットをして準備しますが、実際に授業でアウトプットするのはその一部だけです。一方で、経験が浅い先生は、準備したものをすべてアウトプットしようとしてしまう傾向があります。

 

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