山本:幼稚園で既に主体性を奪われ始めるのですか?
工藤:はい。例えば、公園の砂場では、親が「友だちにシャベルを貸してあげたら?」と自分の子に促します。借りた子の親は「ありがとうね。ほら〇〇ちゃん、ありがとうは?」といった感じです。
山本:なるほど、よく見かける光景ですね。こうなると、問題を解決するのは自分ではなく、周りの大人だと感じるようになりますね。
工藤:子どもの主体性、この砂場の例で言えば、他者と円滑にコミュニケーションを図ったりトラブルを乗り越えたりするための「当事者意識」を育てるためには、幼児教育から変えなければなりません。人のシャベルを勝手に取ってしまえばトラブルも起きますが、泣くことによって自尊感情が芽生えますし、次の日には「貸して」「いや」「なんで?」「返してくれないから」という会話も生まれる。これは大事な社会性の学びですよね。
この体験をしている子どもたちは、対立を解決するために利害に注目し、感情をコントロールできるようになります。でも、大人が手を貸して解決し続けた子どもたちは、大人が警察官になり裁判所になってほしいと要求する。うまくいかないと、「あいつをどこかへやってくれ」「お母さん、あの子意地悪だからなんとかして!」となる。これでは当事者として多様性を受け入れる社会は作れません。
失った主体性を
取り戻すためには
山本:なるほど、では主体性を失ってしまった中学生、高校生を学校はどう育てればいいのでしょうか?
工藤:主体性を取り戻すためにさまざまな制約を取り去り、学校での過ごし方を自由に選べるようにする必要があります。例えば、横浜創英の中学校の英語で取り組んでいるように、学び方を選べるようにするのは素晴らしいアイデアで、全国の学校のモデルになると思います。
山本:そうですね、授業を生徒主体にするには、「自分で考えて、自分で選択し、行動する」ことを取り入れなければならないと思います。
横浜創英の英語の授業では中1から中3までが同じ時間帯に英語の授業があり、学年やクラスの枠を飛び越えて学ぶことができます。具体的には教室を学び方で分け、「先生が教える部屋」「友達とコミュニケーションしながら学ぶ部屋」「AI教材などを使って個で学ぶ部屋」「プログラミングを通して英語を学ぶ部屋」「英会話を企業から学ぶ部屋」などです。
工藤:この方法を導入した当初は、全体の3分の1くらいの生徒がゲームなどで遊んでいましたよね。主体性を奪われた子どもたちは、最初は適切な選択ができません。だから放任するだけではうまくいかない。そこで大人がかけるべきなのは「どうしたの?」「君はどうしたいの?」「何か手伝えることはある?」という3つの言葉です。
山本:この3つの問いかけは、横浜創英でも多くの教員が実践するようになりましたね。問いかけることで子どもたちが自律的に考えるようになる。その変化も目の当たりにしてきました。特に「どうしたい」の問いかけが大切だと思います。授業でもその教科を学ぶ目的ができて、初めて主体性が生まれるものです。
工藤:「どうしたい?」の問いかけや、周りの友達が学び始めるのを見たりすることで、自分の行動を変え始めますよね。当初サボっていた生徒も2カ月くらいで10人くらいに減り、半年も経つと数名にまで減りましたね。生徒たちは学ぶ目的を意識し始めたのでしょう。
山本:多くの授業は目的を失ってしまっていて、生徒たちも「授業は受けるもの」「テストがあるから学ぶ」といった意識で受動的に授業を受けているのではないでしょうか。そうすると、先生の教え方などサービスを求めるようになります。
工藤:そうですね、ですから最終的に人のせいにしなくなる時が、子どもたちが主体性を取り戻せた時だと言えます。一斉教授型の授業を続けていると、どんなに主体性を取り戻そうとしてもどこかでブレーキを踏ませてしまう。やるなら本気で、全教科を主体的に学べるように変えなければいけません。
横浜創英ではスマホやゲームなどに支配されず、これらをコントロールするのは自分自身だと教えます。スマホを無理やり取り上げたりはしません。ただ一つ、「他人の学びの機会を妨げてはいけない」というルールだけを定めています。この環境のもと、一人ひとりの子どもたちに自分で考え、判断する経験を積んでもらっています。
*後編(5月9日公開予定)へ続く