幼児期から奪われ始める
子どもの主体性
山本:僕はこれまで授業改革が教育改革の中で一番困難だと思っていました。工藤さんに出会って、授業を変えるには学校経営の視点が必要だと気づかされました。授業は教育活動の中心となるものですが、それだけ見ていてはダメで、学校全体を俯瞰しながら、多くの要素と関係し合いながら変化していくもので、これまでの僕は単なる授業実践家に過ぎなかったなと。
工藤:確かに授業を変えるには授業以外の要素が重要です。授業を子どもたちの自律を育てるものにするには、トラブル対応のスキルやカウンセラーなどの教育相談体制の充実が重要です。さらには、授業を変えていくことで教員の働き方が良くなっていくことも大切な視点です。私も授業改革は困難だと思っています。ただその解決の大きなヒントをくれたのは山本さんであり、横浜創英の改革の流れに乗れば必ず成功すると確信しています。
山本:さまざまな要素を子どもの自律を育てることに向けているので、横浜創英ではすべての教科での取り組みに広がっているのですね。2022年度からカリキュラムの専門家である本間校長(当時は副校長)とタッグを組んで、20名ほどの先生方と「学び方改革プロジェクトチーム」をスタートさせました。
工藤:はい。横浜創英の生徒たちが、一人ひとり学び方を選択することを通して自律を育てるカリキュラム作りを目指してきました。困難なパズルのピースを一つずつ埋めていく中で、大切にしてきたのは、子どもたちに学びの選択権を与えることです。教員は1人で120人の子どもに授業をすることもあれば、1対1で教えることもある。あるいは、全国にいる優秀な講師の動画を見ながら黙々と学べる部屋も作る。こうした選択肢を提示して、子どもたちが自ら学び方を選べるようにしたいんです。
山本:単に学び方を改革するだけではなく、教員にとっては働き方改革にもつながっていることが大切ですね。今までの日本の学校の授業は、教員が頑張って準備して、子どもたちに興味を持ってもらおうと努めてきました。その結果としてどんどん労働時間が長くなっていった。でも子どもたちが自分で学び方を選ぶようになれば、教員のやるべきことは教科の専門性を高め、子どもたちが自律して学ぶことへの支援です。一方的に「教える」ための準備が少なくなるので、労働時間は大幅に削減されるし、教科の専門性があれば、初任の教員でも問題なく対応できるのではないでしょうか。
工藤:子どもたちが自ら学び方を選ぶようになることで、時間的な負担はもちろんのこと、教員のメンタルの負担も大きく軽減されるはずです。これまでの日本の教育は真逆でした。ひたすら子どもたちに手をかけ、学びたくないと思っている子どもにも無理やり学びを与えようとしてきたんです。
山本:だから教員に過度な負荷が生じてしまうと。
工藤:はい。子どもは本来、主体性を持って生まれてくるのに、幼稚園や小学校、中学校と経ていく中でどんどん主体性を失ってしまう。だから子どもたちにはリハビリが必要です。