2025年12月5日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年6月12日

「反乱法」を〝温存〟か

 この件で将来に向けて識者が気がかりな点の一つはトランプが今回、反乱法の規定を覚書に書き込まなかったことである。今回の覚書で引き合いに出されている連邦法は、条件がより厳しく定められているのに対し、こちらを用いればより自由に軍を投入できると考えられるのにもかかわらずである。

 実際、バンス副大統領をはじめとするホワイトハウス高官は「反乱」という用語をしばしば口にするが、不思議なことに覚書では触れられていない。この法律が用いられたのは、南北戦争直後の白人至上主義結社のクー・クラックス・クラン(KKK)の勃興に対する大規模な危機に関するものが有名である。もし、近い将来にむけて奥の手としてとってあるのであれば、より深刻な事態に突入する可能性を秘めている。

 第一次トランプ政権時に州兵の派遣という深刻な事態には陥らなかったが、トランプはその可能性について触れて脅したことはあった。ただ、当時のトランプは軍の使用に関して抑制的であった。それはおそらくマティス国防長官やエスパー国防長官のような軍をよく知る人物が傍にいて抑えていたからだろう。

 今回の第二次政権においてヘグセス国防長官は、トランプに歯止めをかけるどころか、意をくんでより積極的に展開する可能性が高い。実のところ進んで実戦部隊である海兵隊の展開にも言及したのは彼であった。

 トランプやヘグセス国防長官が、海兵隊の実戦部隊の投入を示唆し、州兵の派遣と海兵隊の配備ではレベルが異なり極めて危険であると声が上がっている中、あっというまに海兵隊は投入された。海兵隊の国内治安維持のための派遣は、92年のロサンゼルス暴動以来であるが、その時は州知事の了解のもとであった。

全米各地で適用し得る

 事態は想像を超えた速度で進んでいる。今回の大統領の覚書には、カリフォルニアという文字はない。つまり、場所は限定されていないのである。そうとなれば、全米各地で移民の摘発に反対するデモが起きれば適用されるかもしれない。

 歴史を振り返ればそのような暴動は暑い夏の間に発生してきた。公民権運動が盛んだった1960年代にも毎年夏になると全米各地で暴動が発生した。

 梅雨のない北米は夏の訪れも早い。米国では5月には多くの大学が、6月には小中高校も夏期休業に入る。長く暑い夏は始まったばかりである。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る