トランプ大統領は6月7日夜、少なくとも2000人の州兵を連邦職員の法執行を助けるため派遣する覚書に署名した。ことの発端は6日、移民関税執行局の捜査官らが、ラテン系の移民が多く働くロサンゼルスのダウンタウンにある衣料倉庫などに、不法移民を摘発するために捜索に入ったことにあった。

不法移民の大量送還は、トランプ大統領の公約の柱の一つであり、注目されていたところでもあった。ところが当初はエルサルバドルへの送還など大掛かりな送還が行われたものの、最近その数字は伸びず、政権幹部からは一日3000人を拘束するようにとの激が飛んでいたという。
そのような中、全米第二の都市で行われた突然の厳しい取り締まりに、不満な住民の一部が捜査員に物を投げるなどして抗議し、移民当局は催涙弾などで応戦して小競り合いになった。翌7日にも近隣の別の地区で同様の衝突が起き、地元警察が動員される騒ぎとなった。それに対して、州や市当局は、連邦の助けを借りずとも対応可能としたものの、それを無視してトランプ大統領が州兵の派遣を命じたのだった。
州兵とは?
州兵というのは、通常は知事の指揮下にあり、災害対応などにあたる組織だが、緊急時には、大統領の指揮下に組み込むことが出来ると連邦法で定められている。今回トランプが覚書でその根拠としたのは、合衆国法典第10編第12406条である。これは、外国からの侵略やその恐れがあるとき、連邦政府に対する反乱やその恐れがあるとき、もしくは、通常の軍では法執行が困難な時に、そのようなことが可能としている。
今回は、先の覚書の内容から、政権が連邦政府に対する反乱やその恐れに該当すると解釈したことがうかがえる。連邦法は、州兵を含む軍が国内の法執行に携わることを禁じているが、連邦の法施行者を保護することは認めている。そのため、州兵が直接暴徒を逮捕することはできなくとも、不法移民の摘発にあたる捜査員を守るということで派遣は可能という理屈である。
ただ、これに対してカリフォルニア州のニューサム知事は、知事の同意のない今回の派遣は違法であると抗議した。そして、そのような派遣はことを収めるどころか、「むしろ意図的に煽り、緊張を激化させるだけだ」とXに投稿した。
そもそも州兵の派遣は、当該問題が発生している市などで状況を把握し、対処困難となったときに知事に警告を発し、知事が要請するというボトムアップで行われることが想定されているもので、知事の意思に反して派遣されるのはおかしいというのである。
7日夜にトランプが覚書を公表すると、翌8日には派遣された州兵が到着し始めた。その展開の早さに、事前に準備されていたのではと訝しがる向きもあった。