トランプ政権の厚生長官に就任したのは、トランプが任命した高官の中で最も物議を醸した人物の一人であるロバート・ケネディ・ジュニア(71歳)だ。通称はRFKジュニアで、ボビーという愛称で親しまれている。母親のエセル・スカケルと父親のロバート・ケネディ元司法長官の間には7男4女の11人の子がいるが、ボビーはその3人目として、首都ワシントンDCで生まれた。ジョン・F・ケネディ元大統領は彼の伯父にあたる。

父親は1968年、大統領候補指名選挙のキャンペーン中に暗殺されたが、その後、14歳のケネディ少年は2つの寄宿学校から薬物乱用で退学になるほど、精神的な打撃は大きかった。ケネディは、薬物乱用の過去の問題を含む個人的な苦悩や回復への道のり、家族と信仰に対する献身について、包み隠さずオープンに語ってきた。また、その悲劇は、公共サービスに対する考え方を形成したといわれている。
ハーバード大学を卒業後、バージニア大学ロースクールで法学博士号を取得。弁護士として頭角を現す嚆矢となったのが、84年から始めたハドソン川の保護に取り組む団体「リバーキーパー」での活動である。環境保護活動家としての彼の尽力は高く評価され、タイム誌の「地球の英雄」の一人に選出されたほどだ。
ケネディは全米各地の法廷に足を運び、環境法の施行と説明責任の確保のために大企業を相手に訴訟を起こし、成功を収めてきた。この活動に加えて、環境問題に関する著書として、“The Riverkeepers”(邦訳『リバーキーパーズ:ハドソン川再生の闘い』、朝日新聞出版)などを出版しており、環境保護を弱体化させている政治勢力や企業勢力を痛烈に批判している。
近年は陰謀論者としても世に知られるようになった。とりわけ、声高に新型コロナウイルスワクチンを巡る根拠のない持論を掲げ、批判してきたことはよく知られている。それが大いに物議を醸し、厚生長官として上院で承認されない可能性に拍車をかけた。しかし、1月の公聴会で「私はワクチンに反対する立場ではない」と強調、最終的に賛成52票・反対48票で承認を勝ち取った。
彼が科学界から激しく批判されたのは、ワクチン懐疑論の推進団体「Children’s Health Defense」を設立して、ワクチンと自閉症を結び付けたことだ。今年の4月16日の記者会見でも「自閉症は家族を破壊する」と言って、自閉症の子どもを持つ親たちから非難されたが、翌日「それは自閉症の4分の1に当たる重症の場合について述べただけで、残りの人はきちんと仕事をして、独立した生活をしている」と釈明をした。
ケネディの私生活は浮き沈みの連続だった。初婚では2人、再婚して4人の子どもをもうけたが、再婚相手のリチャードソンは2012年に自殺した。この悲劇はケネディに深い影響を与えた。14年には、米国で人気のシチュエーション・コメディー・ドラマ「Curb Your Enthusiasm」の役柄で有名な女優のシェリル・ハインズと結婚している。
ケネディが脚光を浴びることになったのは、23年4月、大統領選に立候補することを表明したときだ。ケネディ家は昔から民主党を代表する一家であるが、同年10月にはバイデン氏との指名候補争いを避け、無所属での立候補を宣言した。泡沫候補ではあったが、「壊し屋候補(spoiler candidate)」といわれていた。