奸智にたけるトランプは、ケネディに対し、大統領選から撤退して自分を支持するなら、自分が勝利した暁には、政権の要職を与えると電話で「取引」したといわれる。そして、24年8月、ケネディは選挙戦から事実上撤退し、共和党のトランプを支持すると表明した。彼は「第3の候補」として一定の支持を集めていたが、支持層の動向が激戦州の情勢に影響を与えるのは必至であった。
ケネディの弟に当たるマクスウェル・ケネディ(60歳)は、怒りを込めて筆者にこう語った。
「トランプはまさに、私の父が訴追していたような傲慢ないじめっ子だった。父の生涯は、アメリカ国民の安全や安心、幸福の促進に捧げられた。トランプはその全ての敵だ。彼の関心は自分自身と、プーチンのような独裁者だけだ。私の父ならプーチンとの関係を国家存亡の危機とみなしていただろう。
そして今、そのトランプを私の兄が支持しているのだ。ボビーは11人兄弟の中で最もワイルドだったが、それでも私たち家族の価値観に全く忠実でないトランプに忠誠を誓うなんて、私には考えられない。とりわけ、純粋な環境保護主義者であるボビーが、歴史上最も反環境保護的な大統領と手を組んだことは、偽善的としか言いようがない」
保健福祉省職員の大量削減
解雇を知らない人も……
保健福祉省(HHS)長官ともいわれる厚生長官の役割は、主に米国民の健康を守り、必要不可欠な福祉サービスを提供することである。疾病対策センター(CDC)や食品医薬品局(FDA)などの公衆衛生機関を管轄するが、とりわけFDAについてトランプは「規制すべき業界の傀儡と化している」と批判し、「最優先事項としてその機関を浄化することが重要」と宣言している。
4月初め、HHSの連邦職員8万人のうち、2万人を減らすと発表し、CDCとFDAで大規模な解雇が始まった。対象職員の中には、感染症対策を担当する幹部や医薬品の審査に携わる職員、たばこの規制を行う部署の幹部も含まれており、解雇されたことを知らずに、出勤しようとした人もいたという。
米国では今年、感染力が非常に強い「はしか」が各州に広がっており、対応への影響を懸念する声も上がっていたが、死者が出たこともあり、ケネディは主張を180度転換。「ワクチンは死に至る恐れのある病を避けるために極めて重要だ」と訴えた。ようやく厚生長官にふさわしい考え方になってきたようだ。
ワクチンをめぐる米国の政策は世界の公衆衛生に大きな影響を与える。ケネディの一挙手一投足から目が離せない。
