2025年12月5日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年6月12日

60年ぶりとも言える事例

 大統領が州兵を指揮下において派遣するのは前代未聞というわけではない。例えば、1992年、ロドニー・キングを殴打した警官たちに対する無罪評決に端を発したロス暴動の折にも派遣されている。ただ、このときは、当時のウィルソン知事の要請に基づきブッシュ(父)大統領が派遣したのであった。

 今回のような知事の意思に反して州兵を連邦の指揮下において派遣するという事例は、60年代にまでさかのぼらなくてはならない。当時は公民権運動が盛んな頃で、人種平等を推し進めようとする連邦政府と、人種分離を続けようとする一部の南部諸州との間で対立が続いていた。

 特にアラバマ州では、時のウォレス知事が黒人を白人と同じ学校に行かせよという連邦政府に対して、「今人種隔離を、明日人種隔離を、永遠に人種隔離を」と演説して頑強に抵抗していた。そこで65年、知事の頭越しに州兵を連邦の指揮下に組み込んで、公民権運動の行進をする人々に危害を加えかねない人種差別主義者から守るため、州兵を配置したのであった。ただ、以後60年間、そのような事例は見当たらない。

 9日には、カリフォルニア州のニューサム知事が、抗議デモ対応のための州兵派遣は連邦政府の権限を逸脱しており違憲だ、としてサンフランシスコ連邦地裁に提訴した。同州のボンタ司法長官は、今回の件は大統領の覚書が根拠としている法律の条件のいずれにも該当しておらず、違法であると批判している。トランプ第二次政権発足以来、カリフォルニア州が政権を訴えた回数は20回を超えている。

民主と共和の戦いにも

 民主党関係者は、次々とトランプの州兵派遣に反対の声を上げた。急先鋒は、第二次トランプ政権開始後も全米を遊説して批判し続けているサンダース上院議員であった。彼は、今回の派遣は移民問題とは無関係で、「この国を独裁体制へと導こうとする企てに他ならない」との声明を公表した。民主党の知事たちも共同で今回の行為は「権力の濫用であり深刻な問題である」との声明を発表した。

 一方、共和党関係者は、次々と大統領を擁護した。なかでもジョンソン下院議長はABC放送の番組に出演し、「大統領はまさに必要なことを行ったと思います」と述べた。大統領は連邦法による法の支配を維持する必要があり、ニューサム知事にその能力がない以上、仕方がないというのである。

 ロシア皇帝になぞらえて「国境のツァー」の異名をとる国境管理の責任者トム・ホーマンは、移民取り締まりの妨害をするなら知事であっても逮捕するとの認識を示し、それに対してニューサム知事はテレビのインタビューで「逮捕するならやってみろ」と発言するなど、事態はよくない方へと流れているように見えた。

 トランプもまず少し褒めるようなことを言ってから落とす独特の言い回しで、「ニューサムのことは好きだし、彼はナイスガイだ。でもひどく無能だ」と貶した。ニューサム知事は、2028年大統領選挙の民主党の有力候補の一人と目されており、共和党政権にはライバルを早めにつぶしておこうという意図もあるのかもしれない。


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