大統領が「統一」を語ったその日にこのような行動が取られたことは、疑念を生む。さらに民主党が、公職選挙法や刑事訴訟法の改正を強行すれば、彼の掲げる統一のビジョンは疑われかねない。
国民が協力と統合の効果を実感するには、李在明政権は行動で成果を示さなければならない。李在明は民主国の大統領として、支持層だけでなく彼に投票しなかった人々も抱擁する指導力を発揮することが必要だ。一貫性と包摂性のある統治を通じてのみ、李在明は「全ての国民のための大統領」になるとの誓いを証明できるのである。
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はらむ独裁化のリスク
4月4日に尹錫悦が弾劾罷免されたことを受けて6月3日に行われた韓国大統領選挙は、野党「共に民主党」の李在明が勝利した。得票率は、李在明49.42%、保守「国民の力」の金文洙 41.15%、保守系改革新党の李俊錫8.34%だった。投票率は 79.4%と、2022年の前回大統領選の 77.1%を上回った。
主要な争点は、非常戒厳発令と国内政治や国内経済で、深い政策論争が議論された訳ではなかった。李在明は尹錫悦の非常戒厳を糾弾し、金文洙は「怪物総統(李在明)の独裁阻止」等を主張した。
世論調査では李在明が一貫してリード、金文洙は李在明の弱みを十分に突くことができず、その支持は伸び悩んだ。選挙終盤で、金文洙は李俊錫との一本化を試みるも不発に終わった。保守側が一本化していれば、選挙はもっと接戦になったかもしれない。
与野党も、国よりも党、党よりも自分のことを第一に考え、韓国政治をどうするのか、指導者不在で世界の問題への対応空白等についての政策論争は低調だったようだ。選挙は大方の予想通りの結果になってしまった。
保革対立の構図はなかなか変わらない。李在明は今回、革新の地盤である全羅道に加えソウルのある京畿道等や中央部の忠清道で支持を拡大した(保守が勝ったのは慶尚道、江原道、釜山等)。
今回の選挙結果の最大の懸念は、民主党による議会と大統領双方の掌握である。議会では既に革新系が300議席の内189議席を掌握しており、今や大統領も掌握した。
後は司法に影響を及ぼそうとしている。それには「司法リスク」を抱える李在明自身の利害も掛かっている。選挙前には最高裁への不満も述べていた。さらに夫人も選挙法違反で係争中だ。
李在明が手に入れた未曽有の権力を国民融和に使うのか、司法や保守党と対決に使用していくのか。党内には反対派はおらず、独裁化のリスクを指摘する向きもある。
