英国は射程7400キロメートル(km)のトライデントⅡミサイルを50発保有しており、これは、現在の体制では十分な数だと言えよう(原潜1隻につき最大16発で、実戦配備3隻とすれば、48発で足りる)。ただ、問題はこのトライデントⅡミサイルは、米国ジョージア州のキングスベイ米海軍基地に備蓄されており、搭載の際に英国用ミサイルはその備蓄の中からランダムに選ばれることだ。
もちろん、所有権は英国に属しているが、米国が関与をためらえばどうなるのか。今回の戦略見直しでは、英国が仏と共に欧州各国に核の傘を提供しなければならなくなる事態を想定し米国依存の改善を試みるとの観測もあった。
厳しい懐具合
第二に、より深刻なボトルネックは財政だ。英国の国防費は規模からいえば、NATO諸国内で米、独に次ぐ第3位。ただ、6月5日に開催されたNATO国防省会合では、対GDP比で5%を国防費や関連投資に充てるという新目標に加盟国の幅広い支持が得られたと報じられる一方、スターマー首相は、国防大臣が掲げた34年までに防衛費を対GDP比3%まで引き上げるとの目標の確認を避け、現時点での英国の目標は27年4月までに現在の対GDP比2.3%から2.5%への引き上げに留まっている。これで各種改革は実現できるのだろうか。
6月3日付けフィナンシャル・タイムズ社説‘The gap between Britain’s defence rhetoric and reality’は手厳しい。ロシアの脅威は現存しているのに、英国の原潜建造・就航には10年以上の時間が必要だ。
見直しが目指す英陸軍兵員数7万3000人は、ナポレオン戦争時代以降最低の規模だと言う。2.5%目標では弾薬備蓄・生産の既存のギャップを埋めるにすぎず、抜本的な体制強化に繋がらない。
社説は最低3%に対する確固たるコミットメントが必要だとしているが、NATOの現実は既にそれより先を行っている。やはり米国への依存は不可避なのだろうか。
