特筆すべきは日本市場への対応であり、国内専用モデルをグローバル仕様から30%ほど安くすることで、ファンに手の届く価格を実現している。もちろん、そうなると転売される危険があるわけだが、今回は転売対策も徹底しており、大きな混乱は起きていない。また、これは世界共通の戦略として、製品仕様の発表から実際の発売まで5カ月という期間を置いたことで、丁寧なマーケティングと、初期の生産台数の調整もできたようだ。
CNBCのアナリストも指摘していたように、任天堂は今回のスイッチ2発売の成功で、時価総額が17兆円となり、順位で言えば東証プライムの5位となったことだ。4位の日立に肉薄しており、1位のトヨタと比較すると42%のところまで来ている。ハイテク専業で、しかも全世界をカバーする最終消費者向け、つまり純粋B2Cビジネスで、さらに紛れもない知的付加価値生産で成功しているということでは、当に日本初のユニコーン企業となっている。
ゲーム産業は今後、大きく変化の可能性
では、任天堂とスイッチには明るい未来が待っているのかというと、そう簡単には言えない。ゲーム産業というのは、既に全世界で40兆円となり成長率も拡大している。けれども、激しい競争があり、プラットフォーム同士の競争と相互乗り入れなど市場の様相が極めて速いスピードで変化する産業だ。
そんな中で、現在話題になっているだけでも、多くの課題が指摘されている。
まず、機器の性能向上と、消費者の要求の拡大によって、ゲームの新規開発予算は膨大なものとなっている。メジャーな製品として世界を制覇するには、巨大投資が必要であり、そうなると単一のプラットフォームでは回収できず、マルチ対応になってくる。これが進むと、各プラットフォームの差別化が難しくなる。
一方で、半導体の技術革新が加速している。特にGPUは、一時期に暗号資産のマイニングでブームになったが、現在はAIの処理を目的とした大量生産と高性能化が進んでいる。その影響で、ゲーム機向けのチップも高性能化と省力化、低価格化の流れだが、そのためにスマホの性能も上がってきており、ゲーム専用マシンの存在意義は安定しない。
全く別次元のものとして、VR(仮想現実)の登場、さらにはVRとAR(拡張現実)の統合という動きも出てきている。この領域は、GAFAMの中でも明暗を分けているぐらい厳しい競争の世界であり、同時に巨大なリスクを取りながら巨額な先行投資がされている分野でもある。このVRの動向は、ゲーム産業にも大きな影響を与えかねない。
社会的位置づけとしても、Eスポーツというプレイ環境の進化もあれば、オンラインカジノという社会的な問題を抱えたビジネスも隣接している。どちらの動向も、例えば巨大な北米市場では、ゲーム産業の今後を左右しかねない。
全体的な構造としては、ゲーム産業が巨大化することで、テック企業同士の合従連衡やM&Aなどの動きに巻き込まれる危険もある。反対に、チャンスとあれば、ライバルや隣接企業の買収などの必要も出てくる。
