イラン攻撃のB2は送受信機を作動させず、米軍の動きを注視していたメディアはB2がグアム方面に向かったと報じていた。完全な「おとり作戦」だった。
トランプ氏はこの時、支持者の間の「イデオロギー戦争」に身を引き裂かれていた。MAGA(メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン=米国を再び偉大に)は中東の戦争に巻き込まれるとしてイランへの介入に反対していた。
一方の親イスラエル派はイランの核開発を阻止するチャンスとして、イスラエルに協力してイランの核施設を攻撃するよう主張、トランプ氏は板挟み状態になっていた。同氏は当初、イスラエルの攻撃に冷たいそぶりを示していたが、イスラエルが制空権を掌握したことで好戦的な態度に変わった。
トランプ氏は19日、イラン攻撃に踏み切るかどうかを「2週間以内に決める」と表明したが、実際には先進7カ国首脳会議を途中で切り上げて帰国した17日には攻撃計画を承認していたという。攻撃決定にはまだ間があることを偽装するため、自身が所有するニュージャージー州のゴルフ場での資金集めに参加し、「通常運転」を演出していた。
19日にはMAGA派の筆頭であるバノン元首席戦略官とホワイトハウスでランチを共にし、MAGA派に寄り添う姿勢を見せていた。トランプ氏の攻撃は核施設を破壊するための1回のみの「限定作戦」。イランが本気で報復し、戦争の泥沼に足を取られることを内心では恐れていた。
「ホッとした」というのが本音だろう。ノーベル平和賞が見えたと思っているのかもしれない。
復活したネタニヤフ
劇的に復活したのはネタニヤフ首相だ。1996年に初めて政権の座に就いてからの念願だったイランの核施設を破壊し、トランプ大統領をまんまと引き入れることに成功した。「イスラエルの守護者」としての地位を固め、来年の総選挙に勝利する見通しもついた。
パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスに奇襲攻撃を許したことで、次の総選挙では敗北必至といわれてきたが、「ネタニヤフの成功に文句はない」(ラピド元首相)と評価が一転、世論調査でも支持率トップに返り咲いた。このまま選挙に勝ち、レガシーを固めたいところだろう。
一人負けの恰好のイランだが、結局のところ核武装しか抑止力になりえないことを噛みしめているのではないか。フォルドウの核施設から60%の濃縮ウランを事前に持ち出した疑いもある。戦争はイランの核武装への決意を高める結果になった疑念が消えない。
