日本の4地域の65歳以上の住民を対象にした調査で、22年時点での認知症とMCIの有病率を元に患者数を推計した『認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究』によると、25年には認知症が471.6万人(有病率12.9%、その年での65歳以上人口に占める患者割合、以下同様)、MCIが564.3万人(15.4%)、50年には認知症が586.6万人(15.1%)、MCIが631.2万人(16.2%)と、総数・割合共に増加すると推計されている。
一般に、MCIは「軽い認知症」「認知症予備群」「認知症の前段階」などと呼ばれることもあるが、MCIの人がすべて認知症へ移行するわけでない。MCIの段階で適切なケアを行うことで認知症への移行を遅らせたり、年齢相当の状態へ回復する可能性もある。
早期発見、早期対応が必要な所以である。しかし、どんな人にどのようにして診断を進め、そしてどのような対応をしたらよいか。実はこれがなかなか難しい。
MCIとアルツハイマー病の診断
認知症もMCIも、一つまたはいくつかの症状を示す状態であり、その状態を起こす原因や疾患は多岐にわたる。その中でも、認知症の原因として最も多い疾患はアルツハイマー病である。
16年から18年にかけて日本の8地域の65歳以上の住民約1万人を対象にした調査で示された認知症の原因の内訳は、アルツハイマー病67.8%、血管性認知症11.4%、レビー小体型認知症4.8%、その他1.7%、混合型6.0%、不明8.4%だった。
家庭医によるMCIとアルツハイマー病の診断は、通常次のように行われる。まず、患者や家族らから認知機能の低下が疑われる症状が報告された場合に、丁寧に病歴聴取と身体検査を実施する。日常生活のどんな場面で起きているのか、そのような症状があることでどのように辛いのかを、患者の健康観や患者を取り巻くさまざまな要素(コンテクストと呼ぶ)を含めて理解しようと努め、「患者中心の医療の方法」のアプローチに沿って診療を進める。
検証済みの質問表を用いて認知機能評価を実施する。身体疾患やメンタルヘルスの問題による認知機能の低下が前面に立つことがあり、それらの疾患が隠れていないかを診断するために、通常必要となる血液検査と脳の画像検査を実施することを相談する。
認知機能が低下していても日常生活に支障が出ていなければ、MCIが考えられる。支障が出ている場合には認知症としてその原因を探る。
認知症で頻度が一番高いアルツハイマー病と診断できるかを、いくつかの学会や団体が発表している診断基準を参考にして検討する。もし症状が非定型的で診断に苦慮する場合には、患者・家族の意向を確認の上、認知症ケアの専門家へ相談して連携してケアを進める。
