スクリーニングとしての検査
「私も50歳以上だし、この血液検査をしてもらいましょうか」
「ちょっと待って下さい、K.T.さん。この血液検査はまだ日本では認可されていないはずです」
「えっ、先生、人間ドックのホームページを見たら、いろんなところでMCIスクリーニングの血液検査をしてるって書いてますよ」
K.T.さんに言われて、インターネットで「人間ドック、認知症、血液検査」をキーワードに検索してみると、確かに多くの医療施設のウェブサイトで「MCIスクリーニングの血液検査」「認知症の発症リスクを測る血液検査」などを提供していると表記している。
しかし、それらの検査が実際に何を調べていて、それをアルツハイマー病の診断に用いることの有益性と害についてどのような臨床研究のエビデンスがあるのかは明らかにはされていなかった。
こうした医療技術について、日本で公的機関が正式に検討・評価した結果をどこかで公開しているかの情報は見つけられなかった。
さらに、人間ドックや認知症ドックは基本的に無症状の人が行うスクリーニングである。日本では、症状のある人に疾患がないか診断を進めることとスクリーニングを混同している場合が多い。
主要国の学会・団体では、無症状の成人に対して認知障害のスクリーニングは推奨していない、または推奨するにはエビデンスが不十分であると判断している。認知障害の兆候や症状が認められない高齢者では、認知障害のスクリーニングの有益性と害のバランスを評価するにはエビデンスが不十分であると結論付けているのだ。
レカネマブについての英国NICEの現状評価
23年1月の記事「 認知症新薬「レカネマブ」への期待と懸念」で、英国の医療技術評価機構(NICE)が、22年12月に英国政府からの依頼でレカネマブのヘルス・テクノロジー・アセスメント(HTA)に着手したが、製薬会社側からの要請で、包括的な提出物を用意するために予定が繰り下げられて23年8月下旬から検討開始予定と書いていた。
しかし、NICEのウェブサイトによると、検討のスケジュールはさらに遅れ、24年5月に初回の委員会が非公開で開催された。その後も委員会は続き、最終報告書は今年7月23日に公開される予定だ。
ちなみに、初回委員会が非公開となった理由は、英国で医薬品の認可と安全性に責任をもつ医薬品・医療製品規制庁(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency; MHRA)がその時点でまだレカネマブを認可していなかったためである(2024年8月に認可された)。
NICEによるHTAは、MHRAによって許可された医薬品についてのみ勧告できるため、MHRAの認可に先んじてNICEがレカネマブのデータについて公開で議論したり、勧告を発表したりすることは適切でないと判断されたとのことである。
こうした経緯も含めて、医療の質や安全に関する情報がNICEのウェブサイトで一元的に公開されている。医療の提供者と利用者、そして医療政策に関わる人たちがワンストップのウェブサイトで同じ情報を参照できることは、情報提供と医療DXの優れたロールモデルである。
