レカネマブの登場で変わる検査の必要性
23年1月の『家庭医の日常』「 認知症新薬「レカネマブ」への期待と懸念」に書いた、アルツハイマー病によるMCIおよび軽度の認知症の進行を抑制する新薬「レカネマブ」が、23年12月から日本でも商品名「レケンビ」として販売されている。
レカネマブは抗アミロイドβモノクローナル抗体に分類される薬剤で、認知機能が低下している患者が脳内にアミロイドプラーク(アミロイドβタンパク質の塊)を有するかどうかを確認することが、治療するかの検討に不可欠となっている。
脳内のアミロイドプラークの評価には、放射能を含む薬剤を投与しその体内分布を画像化するアミロイドPET(陽電子放出断層撮影)と脳脊髄液(CSF)検査が効果的であることがわかっている。しかし、アミロイドPET検査は現在約30万円(保険適用される)と高額であり、患者に放射性トレーサーを注入し、約1時間の待機後スキャナー内で約30分間じっと横たわっていなければならない。
しかもPET検査ができる医療施設は限られている。CSF検査は、背中の腰椎部分から針を刺してCSFを採取するので侵襲性が高く、頭痛や背中の痛みを引き起こす可能性がある。
アルツハイマー病の早期診断・早期治療に道を拓くこれらの検査への経済面も含めたアクセスが不良であることが、診断を不確実にし、認知機能低下患者におけるアルツハイマー病の誤診率を高め、患者・家族の不安を増大させる可能性がある。
新たな血液検査の登場
こうした中、アルツハイマー病を診断するための血液検査についての興味深いニュース記事が最近、米国医師会雑誌『JAMA』に掲載された。
米国食品医薬品局(FDA)が、アルツハイマー病の脳内アミロイドプラークを検出できる血液検査を初めて認可したというのだ。より簡便でコストも低く、広く利用できることから、PET検査やCSF検査の代替や補完として、早期診断と適切な治療の選択に役立つと期待されている。
この血液検査は、脳内に蓄積するアミロイドβとリン酸化タウ蛋白の比率を測定するもので、症状を呈する50歳以上の成人に推奨される。ただし、検査結果にはグレーゾーンがあり、確定診断にはPET検査やCSF検査が必要な場合もあるという。
この血液検査はアルツハイマー病の診断・治療の新しいスタンダードとなる可能性もある一方で、『JAMA』ニュースの記者は、「乱用や誤診のリスクも指摘されている。MCIや良心的に認知機能を気にかけている人がつい検査を受けてしまい、過剰診断や不必要な心配を引き起こす恐れも懸念されている。専門家たちは、適切な患者選定とガイドラインの整備が必要だと述べている」と警笛を鳴らしている。
24年5月23日の日本経済新聞電子版でも、日本の研究グループが、血漿(けっしょう)中アミロイドβとリン酸化タウ217を調べて、PET検査での脳内のアミロイドβ蓄積の結果をどれだけ予測できるかを研究していると報道された。アミロイドβとリン酸化タウ217を組み合わせると、無症状段階とMCIでさらに予測性能が高まったとのことで、「2〜3年以内にも国内で実用化される可能性がある」という。
