2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月8日

 当面の見通しのカギを握るのは、米国の関税でもイラン戦争でもなく、地政学的な相互作用である。これらのショックは互いに影響し合う可能性があり、失速の危機に瀕している世界経済を脅かす。今日の双子のショックは、世界的な景気後退の可能性をますます高めている。

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経済見通しは軒並み下方修正

 モルガンスタンレーの元チーフエコノミストのローチは、この論説で、過去の世界同時不況は、「失速状態」と呼ぶ成長率2.5~3%の危険ゾーンに世界経済が入っている時に、戦争等のショックにより引き起こされたことが実証されており、25年の経済成長率予測2.8%であり、今や危険ゾーンに入ろうとしているところにトランプ関税に加え、今般の対イラン戦争への参加の二重のショックにより世界的な景気後退に陥る可能性が高まったと警告するものである。

 トランプ関税が米国やそのパートナーの個別の経済に影響を与える懸念は既に多くの場で提起されているが、これらが過去4回あった世界同時不況のレベルの景気後退に繋がるとの懸念は、必ずしも有識者の間で明示的に共有されてはいないのではないかと思う。しかし、国際通貨基金(IMF)等の国際機関は、トランプ関税を踏まえて今年の経済見通しを軒並み下方修正し、7月の関税交渉期限切れで高関税が復活したり、中東情勢の混乱で原油価格が上昇すれば世界的不況の引き金となる可能性が十分あることについて異論はなかろう。

 トランプは、対イラン戦争に関しては、ウラン濃縮施設爆撃で目的は達したとして、イスラエル、イラン両国に強引に停戦を求め、事態鎮静化に躍起となっている。トランプ自身がこれ以上の混乱を望んではいないことは確かであるが、イランが今後どう出て来るか、ガザがどうなるか等、依然として中東情勢の今後の展開は予断を許さない。問題は、関税問題だけでも世界同時不況に陥る可能性が十分にあることである。


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