2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月10日

 同盟国は、基本的な弾薬、複雑な兵器システム、そして今日の戦闘の特徴である急速に進化する新技術を含む軍事装備を迅速に生産、維持、補充できなければならない。産業力と軍事力は密接に関連している。防衛分野だけでなくNATO経済全体における産業ルネサンスが必要である。

 我々に対する脅威は増大しており、NATOをより強力かつ公正なものにするだけでなく、戦闘能力をさらに強化しなければならない。それは、NATOの抑止力と防衛態勢を強化し、同盟国が攻撃を受けた場合、NATOにはより強力な反撃を行う能力と決意があることを、いかなる侵略者にも示すことを意味する。

 平和を維持するためには、戦争に備えなければならない。力による平和こそがNATOの設立の目的である。

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米国をつなぎとめる「分割」案

 NATOのルッテ新事務総長が迎える最初の、しかも地元ハーグで開かれる本年のNATO首脳会議は、トランプ政権による「防衛費5%」要求への対応という、同事務総長にとって誠に難しい課題に応えなければならないものとなった。

 上記の論説は、この問題に対する基本的な合意のラインを示したものであるが、ルッテ事務総長の掲げる合意内容のポイントは、今後10年間で達成すべき「防衛費の対GDP比5%」目標を、「中核的防衛能力」のための3.5%と「追加的な安全保障投資」の1.5%に分割し、事実上防衛費の定義をあいまいにしたところにある。

 NATOは2014年のウェールズ・サミットで、全ての加盟国が24年までに少なくとも対GDP比2%の防衛費を達成することで合意していた。24年6月現在のデータに基づくNATO資料によれば、なお8カ国が目標を達成していなかったが、これらの国も本年は全て目標を達成できる見込みとされている。ただし当該資料によれば、この時点で3.5%を達成しているのはポーランド一国、さらに5%に到達している国は米国を含め、一つもない。

 これをいきなり5%にせよというのは途方もない要求とも言えるが、他方で欧州自身の防衛力強化の必要性は間違いのないところであり、また何よりも米国を欧州に留めておくことが至上命令であるとの認識から、何らかの形での妥協を図ることがルッテ事務総長の最大の課題であった。そこで考案されたのが今回の「分割」案である。

 3.5%の「中核的」支出として例示されているのは、戦車、航空機、ミサイル等々、一般に武器として認識されている防衛装備であるが、1.5%の「追加的な安全保障投資」については、「民間輸送網」たる道路、鉄道、港湾の戦時における必要性やサイバー、破壊工作からの防衛上必要なものなどとされているものの、これまでの説明を見る限り、必ずしも明確に定義されているようには思えない。むしろ明確に定義せず敢えて柔軟性をもたせたところに意味があるということだろう。


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