遠い実態としての防衛力強化
ただしNATOには50年代以降今日に至るまで、コンセンサスを得た上で取り決めた「防衛費」の定義がある。それによれば「防衛費」とは「自国の軍隊、同盟国の軍隊、またはNATO全体の必要を満たすために、各国政府(地域、地方、市町村の当局を除く)が行う支出」とされている 。1.5%の「追加的な安全保障投資」がこの定義に当てはまるか否かは議論のあるところであろう。
しかし、より本質的な問題は、新たな防衛費増の目標より真に必要な欧州NATO諸国による防衛力強化が達成できるか否かにある。
欧州軍が米国に大きく依存している分野としてかねてより指摘されていたものには、①情報・監視・偵察、②電子戦、③防空システム、④長距離攻撃能力、⑤戦略輸送、⑥通信、兵站、情報収集、⑦宇宙がある。いずれも戦闘能力という意味において死活的に重要な分野ばかりである。
ルッテ事務総長が「新たな防衛投資計画」の中身として「詳細は機密扱い」としながら例示した支出対象を見ると、その太宗はこれら欧州の「能力ギャップ」とされていた分野であることが分かる。
今回のNATOサミットはいわば政治的解決に近い形で乗り切るとして、今後のNATOは、これを実態としての防衛力強化につなげていくための真に困難な作業に取り組むことになる。
