基準部会長の怒り「基準部会が軽んじられている」
厚労相が情報公開を拒んだ文書とはどのようなものだったのか。ポイントになる資料は2つある。第1に「世帯類型ごとの基準額」(図表2)、「生活保護基準の見直しによる財政効果」(図表3)、第2に「今後のスケジュール案」(図表4)という資料である。
結論を先取りすれば、前者では基準改定の具体的内容を部外秘扱いとして秘匿したことが、後者からは専門家ではなく政治家への説明を優先したことが明らかとなった。
詳しくみていこう。
まず注目してほしいのは、図表2の「(注2)年齢・世帯人員・地域差による影響の調整を1/2とし、平成20年から23年の物価動向を勘案した場合。」という表現である。なお、赤線は筆者が追記したものであり、原典にはない。
これは、「ゆがみ調整の2分の1処理」をしたことを示している。後に弁護団の分析で明らかになるが、世帯類型ごとの「ゆがみ調整」の上げ下げ幅を、一律2分の1にすることで、生活保護利用世帯の半数以上を占める高齢者世帯の上げ幅が半分になった結果、91億2100万円の保護費削減効果が生まれた。
つまり、厚労省が示した「ゆがみ調整」による生活扶助費の削減額90億円は「2分の1処理」によってひねり出された。この処理は、生活保護基準部会の委員には一切知らされなかった。
本田氏の取材に対して、基準部会の部会長だった慶應義塾大学経済学部教授の駒村康平氏は、「削減の影響を緩和するために、2分の1にせよという議論もしていないし、基準部会としては説明を受けたことはない」とした上で、その先は行政の裁量ということなので2分の1とする、3分の1、4分の1ということはありうる。ただし、それだけ基準部会が軽んじられている」と語っている(本田良一(2022)「ゆがみ調整の2分の1処理とは何か」『賃金と社会保障』No.1811・12,p.38.)。
情報公開請求によって公文書の存在が明らかにならなければ、厚労省が独自に「ゆがみ調整の2分の1処理」をしていたことは、一般には知られることがなかったのである。
続く資料では、「2分の1処理」をした「ゆがみ調整」と、「デフレ調整」による生活保護基準(本体)600億円の削減に加えて、特別控除(生活保護利用者が働いて得た所得のうち、1割まで必要経費として認めて保護費を減額しないようにする制度)など加算等の見直しで177億円、さらに期末一時扶助の見直しで70億円、計847億円の保護費削減効果があることが示されている。
自民党議員には秘密裏に説明が行われていた
もう一つ、公文書が明らかにしたことがある。それが、自民党議員には秘密裏に説明が行われていたという事実である。
本田氏は、情報公開を行う公文書について、「2013年度から3カ年かけて生活扶助基準を670億円(6.5%)減額し、期末一時扶助金70億円を減らし生活扶助費を約740億円(7.3%)カットする決定にあたり厚労省と世耕弘成内閣官房副長官との協議、打ち合わせのすべてのメモ、文書」と指定した。
これに対して、厚労相が不開示決定としたのは、「厚労省が作成し、説明に用いた行政文書」である。このことにより、厚労省が公文書を作成し、世耕氏に説明をしていたことが明らかになった。


