2024年5月14日(火)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年5月28日

 もっとも、経済への影響を無視してよいわけではない。全体として経済への悪影響が軽微であっても、一部の地域や企業では、それなりの悪影響が出ることはありうる。風評被害が広がったり、感染度合いと不釣合いに過敏な対応が行われる場合である。これは、天災よりもむしろ人災の問題と言える。

 また、今後の懸念材料としては、インフルエンザの流行が多くの人々を自宅に留まらせ、多くの企業を休業に追い込むことになるかどうか、という点もある。確かに、全ての経済活動が1週間停止すれば、それは1年の2%弱の日数に当たり、経済成長を2%近く下押しする理屈である。5月に入ってから5日間企業活動が自粛されたメキシコでは、これだけで年間のGDPを1%余り下押ししたと見ることもできる。

 この観点からすれば、インフルエンザ対策があくまでも国民の健康が主眼としても、従業員や企業を自宅待機や休業に追い込む以前のところでインフルエンザの流行を抑え込むのが経済ひいては国民生活への悪影響を限定的にするポイントでもある。言い換えれば、慎重な判断が必要ではあっても、企業が営業を継続し、休校や従業員の自宅待機が広がらない限り、経済全体への影響は限定的と言えよう。

 とはいえ、経済活動への影響を考慮するあまり、感染拡大を防止できないこととなれば、結果としてむしろ迅速に休業等の措置が採られる以上の経済的損失が生じることもありえる。適切な判断と対応が政府、企業ともに求められている所以である。

 なお、インフルエンザ対策は経済にマイナスばかりではない。診察・治療などの医療分野、ワクチン開発・備蓄、マスク、うがい薬などの医薬品とその関連品の売り上げなど経済にとってプラス面もある。あまり喜ばしくないプラス材料ではあるが、将来の感染拡大防止を図る必要経費と考えれば積極的な資金投入を惜しんではならないし、それが景気落ち込みの下支えにもなる。

 なにより、今回の新型インフルエンザの日本での感染者数が世界的にも上位になってしまったことを受け、国や企業のリスク管理体制の充実や必要物資の備蓄促進、ワクチンや抗インフルエンザ薬の開発加速などを積極的に進めてもらいたいし、大きな成果が出れば、医薬品分野などでグローバルスタンダードを握る可能性にもつながる。

 新型インフルエンザによる経済損失の拡大防止は、まず予防、次に感染拡大の防止が好ましいということで、国民の健康と生活への配慮の方向と重なる。したがって、新型インフルエンザに対しては、経済面からもバランスの取れた対応と風評被害防止が大事であり、このような意識が足元で強まっていることは心強い。後は、これを一過性のものとせず、将来につなげていくことである。

 

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