今や米国経済・社会をけん引、支える「移民」
そして通常、こうした「WASP」に属する米国人の過去何代にも遡る「祖先たち」は正確には「移住者」に位置付けられ、19世紀末から顕著に増え始めたユダヤ人をはじめとする欧州各国からの「移民」とは厳格に区別されてきた。
「移住者」達はつねに米国社会・経済の主役とみなされてきた。
ところが、その米国は20世紀後半、産業基盤が製造業中心から情報・通信のIT時代に移行し始めるにつれて、様相が一変することになる。「WASP」に代わり、世界各国からの移民ファミリーのルーツを持つ人材の華々しい活躍がにわかに注目を集め始めたのだ。
ITブームに火をつけたのは、個人用マイクロ・コンピューター「アップル」の共同開発者スティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアック両青年だった。二人は1976年、事業家のロナルド・ウェインとともに会社を立ち上げ、「パーソナル・コンピューター(パソコン)」を米国中の一般家庭に一気に普及させ、今日では片手で自由に操作できるスマートフォンを世界の隅々にまで届けるに至った。
その主役であるジョブズ、ウォズニアック両氏とも、移民の家系であることは周知の事実であり、ジョブズ氏の父親はシリア移民、母親はドイツ系移民、ウォズニアック氏は祖父がポーランド移民だ。
「アップル」に続いて、検索エンジンの「グーグル」も1980年代から急速に注目を集め始め、21世紀にはいると、世界の何億人というユーザーを取り込んでしまった。グーグル社はセルゲイ・ブリン、ラリー・ページ両氏が共同創業者だが、ブリン氏は、6歳の時にロシアから迫害を逃れたユダヤ人の両親とともに米国に移り生んだ。
通信販売で世界最大のシェアを誇る「アマゾン」創業者ジェフ・ベゾス氏は、米国生まれだが、4歳の時にキューバ移民だったエンジニアのマイク・ベゾス氏の下に養子として迎えられ、手厚い養育とサポートを受けてきた。その後、名門プリンストン大学でコンピューター・サイエンスを専攻後、ウォール街ヘッジファンド会社副社長をへて書籍電子販売ビジネスを立ち上げ、今日の巨大企業に育て上げた。
フェイスブック共同創業者マーク・ザッカーバーグ氏も、家系は東欧系ユダヤ移民のルーツを持つ。
そして最近では、時価総額世界1位にのし上がった最先端AIメーカー「エヌビディア」の創業者ジェスソン・フアン(台湾出身)、世界一の資産家となった電気自動車「テスラ」社CEOイーロン・マスク(南アフリカ出身)両氏の活動ぶりも国際的な脚光を浴びている。
