すでに起こる米国経済への影響
こうした外国人に対する多岐にわたる制限措置受けて、米国への移民数は今年に入り目立って減少し始めている。公共放送「NPR」が去る7月4日、報じたところによると、今年度1年間の推定移民数は、昨年比212万人減となる見込みという。
さらに、737万人に上る帰化申請資格のある米国滞在者のうち、政府の反移民政策などをきっかけに出国者が増え始めており、その実数はすでに入国者数を上回る異常事態となっている。
NPRは「今回の出入国逆転現象は実に60年ぶりの動きであり、移民含め転入者が転出者を上回る以前の状態に戻らない限り、今後、米国経済に深刻な影響が及ぶことが懸念される」と結論付けている。
しかし、自ら「WASP」であることを誇示するトランプ大統領の下では、バイデン前政権時とは対照的に、政府閣僚など中枢ポストからも黒人、ヒスパニックなどマイノリティ系人材が遠ざけられる傾向にある。
現在、閣僚13人のうち、移民ファミリー出身はキューバ系のマルコ・ルビオ国務長官のみ。他の12人のうち、カトリック系白人のロバート・F・ケネディ・ジュニア保健人的サービス長官、ユダヤ系のハワード・ラトニック商務長官を除く全員が「WASP」に属している。
準閣僚級のジョン・ラトクリフ中央情報局(CIA)長官、ジェイミソン・グリア通商代表、スージー・ワイルズ大統領首席補佐官のいずれも「WASP」だ。
クリントン政権下で経済諮問会議議長を務めたローラ・タイソン・カリフォルニア大学バークレー校経済学部教授は、去る7月3日付けのデジタル評論誌「Project Syndicate」の中で、上記のようなトランプ政権の反移民政策や一連の関税措置に象徴される「米国第一主義」の経済的影響について、以下のように警告している:
「トランプ2.0の一連の移民政策は短期的に、米国経済にダメージを与えるばかりか、中長期的に米国のグローバル・ステータス、競争力を根本的に脅かす恐れがある。過去7カ月の自己破壊的な行動は過去前例がないばかりか、さらに悪化しつつある。
とくに無視できないのは、トランプ政権が、バイデン前政権が残した強靭なGDP、雇用増大、インフレ率低下に象徴されるプラス遺産を台無しにしつつある点である。昨年末に連邦準備制度理事会(FRB)が発表していた経済見通しでは、2025年度にGDP2.1%増、インフレ率2.5%となるはずだったが、トランプ政権発足3カ月後には早々と、GDP1.7%増、インフレ率2.7%に修正された。グローバル経済成長率も昨年の3.3%から今年は2.3%になると見込まれる
米国のインバウンド観光収入は、さまざまなトランプ政権の反移民措置の影響を受けめっきり減少しつつあり、また、レジャー産業、農業、医療関係の労働市場縮小によって、今後、米国経済にブレーキがかかることになる……米国、そして世界が最悪事態に直面する前に、できるだけ早期にトランプ専制政治に歯止めをかける必要がある」
